こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
新年を迎えたばかりで、また絵本作家さんの訃報が届きました。
1月4日、イギリスを代表する絵本作家、ジョン・バーニンガムさんが逝去されました。
このブログでも何度か取り上げていますが、そのユーモラスで飄々とした作風の絵本作品はもちろん、人間としても非常に興味深い人物です。
彼は少年時代、9つもの学校を転々としましたが、そのうち2校が私が本を読んで感銘を受けた人物の創設した学校だったのです。
ひとりはアレクサンダー・サザーランド・ニイルで、もうひとりはルドルフ・シュタイナーです。
彼らはそれぞれ思想は違えど、子どもの教育において「自由」の理念を掲げた点で、その時代では大変に進歩的な教育者でした。
子どもを「矯正」しようとする教育ではなく、子どもを認め、尊重し、その主体性を伸ばそうとする彼らの姿勢と、そして真に問題なのは子どもではなく親であり、教育者であり、周囲の大人なのだという視点は、私の育児観の基礎となっています。
そうした学校で少年時代を過ごしたことがバーニンガムさんの作品にとってどういった影響を与えたのかはわかりません。
それでも私には確かに、彼のすべての絵本に流れる子どもへの眼差しの中に、温かい光を感じることができるのです。
今回は追悼の意を込めて、「ガンピーさんのドライブ」を紹介します。
作・絵:ジョン・バーニンガム
訳:光吉夏弥
出版社:ほるぷ出版
発行日:1978年4月10日
ケイト・グリーナウェイ賞を受賞した傑作「ガンピーさんのふなあそび」の続編になります。
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バーニンガムさんは自伝「わたしの絵本、わたしの人生」の中で、自分の外見が日々ガンピーさんに似てきており、どうやらガンピーさんは自分自身の将来を暗示したキャラクターだったらしいと述懐しています(ちなみに、同書にはバーニンガムさんの若い頃の写真もありますが、めちゃくちゃカッコイイです)。
外見だけではなく、ガンピーさんはもしかするとバーニンガムさんそのものなのではないかと私は思っています。
絵本に登場する大人の中で、私が尊敬するキャラクターと言えば、真っ先にこのガンピーさんを思い出します。
「ふなあそび」で見せた彼の懐の深さと、押しつけがましくない理解と優しさには、何度読み返しても深く感じ入ってしまうのです。
彼こそが本物の大人だと思います。
さて、今回はガンピーさんは愛車でドライブに出かけます。
この車のモデルになったのは、作者の最初の車、1934年型幌付きオースチン・セブンだそうです。
車に疎い私にはさっぱり。
「ふなあそび」では順番に登場した子どもたちや動物たちが、一度に出てきて「いっしょに いっても いい?」。
もちろんガンピーさんは「いいとも」。
「だけども、ぎゅうぎゅうづめだろうよ」。
子どもたちはそんな言葉はお構いなしに「どやどや」乗り込みます。
快適で楽しいドライブ。
テンポのいい文章と風を感じるイラストに、読んでいるこちらも浮き浮きしてきます。
が、前方に灰色の雲が広がり、物語の波乱を予感させます。
果たしてどしゃぶりの雨が降り出し、自動車はぬかるみにタイヤをとられて空回りし始めます。
「だれか くるまから おりて、おさなくちゃ なるまいよ」
ガンピーさんの言葉に、子どもと動物たちはいっせいにその役目のなすりつけ合いを始めます。
「わしは だめだ」
「ぼくも だめ」
「あたしたちも だめ」
「ぬれたら、かぜを ひいちゃうもの」
「おなかが いたいんだもの」
「きぶんが わるいんだもの」
自分勝手な主張を耳にしても、ガンピーさんは腹を立てたりはしません。
ただ、「これじゃ、ほんとに たちおうじょうだ!」と、危機的状況を伝えます。
誰が誰に命令することもなく、みんなが車から降りて押し始めます。
力を合わせて、やっとぬかるみから脱出します。
雨雲も去り、空にはお日さまがきらきらと輝きます。
「かえりは、はしを わたって うちまで ひとっぱしりだ」
ガンピーさんは言います。
「まだ、およぐ じかんは たっぷり あるよ」
みんなはガンピーさんの家の前の川で気持ちよく泳いで遊びます。
そして、やっぱり最後はガンピーさんの限りない優しさに満ちた言葉で締めくくられます。
「また、いつか のりに おいでよ」
★ ★ ★
「わたしの絵本、わたしの人生」には、バーニンガムさんがニイルの創設したサマーヒル校で過ごした日々のことが記されています。
サマーヒル校では生徒たちが自分で校則を作り、授業に出席するかどうかさえも自由でした(それでも最終的にはほとんどの生徒が授業に出るようになるのです)。
そこで作者は絵ばかり描いていたそうです。
ある時、学校の食料貯蔵庫の鍵を盗み出した生徒がいて、それを取り上げたバーニンガムさんは悪友と共に自由に食料庫に忍び込み、夜な夜な缶詰や飲み物を盗み出すようになりました。
それが校長のニイルの知るところとなり、バーニンガムさんは校長室に呼び出されます。
ニイルは「貯蔵庫の鍵を盗み出したやつがいるんだが、ひょっとして、きみが知っているんじゃないかと思ってね」と言います。
バーニンガムさんは部屋を出て、鍵を持って校長室に戻りました。
するとニイルは新聞を読んだままで鍵を取り上げ、それ以上なにも言わなかったそうです。
ガンピーさんは子どもたちの保護者的存在ですが、「ふなあそび」でも今回の「ドライブ」でも、子どもたちに対し、何ひとつ強制しません。
この絵本では「困難に対し、全員が個人的な損得を抑制して力を合わせることで大団円に向かう」というひとつの王道物語が示されていますが、ガンピーさんのあまりのさりげなさによって、そしてすべてを子どもたちの自主性に任せる器の大きさによって、少しの説教臭さも感じさせません。
ガンピーさんのような大人が常に近くにいて、手も口も出さずに見守っていてくれてこそ、子どもたちは本当にのびのびと成長できるのです。
それは無責任な「放任」とは似て非なるものです。
子どもたちも動物も、自分たちがガンピーさんに何かを教えられたとは少しも思っていないでしょう。
ただ、雨上がりの美しい景色と共に、楽しい思い出と共に、魂の深い部分に静かに根付いたものが必ずあるはずです。
それはバーニンガムさんの数々の絵本を読んで育った子どもたちの胸に根付く感情と同じものです。
バーニンガムさん、素晴らしい絵本を本当にありがとうございました。
ご冥福をお祈りいたします。
「また、いつか」
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推奨年齢:3歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆
空の印象的な美しさ度:☆☆☆☆☆
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■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「200冊分の絵本の紹介記事一覧」
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