2023.02.09 Thursday
【絵本の紹介】「みずとはなんじゃ?」【447冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
2018年5月に92歳で逝去された加古里子さん。
最後の最後まで現役であり続け、絵本を作り続けた、日本絵本界の長老的存在です。
今回は加古さんが最後に残した作品「みずとはなんじゃ?」を紹介しましょう。
作:かこさとし
絵:鈴木まもる
出版社:小峰書店
発行日:2018年11月11日
加古さんは緑内障のために絵の仕事が困難になっており、さらに出版社の担当とこの本の打ち合わせを続ける途中で体調が悪化し、作品を完成させるのは難しいかもしれないという状況でした。
子どもが読む本に妥協は許されないという信念ゆえに、加古さんは自分の作品に非常に厳しい人であり、中途半端な仕上がりでは納得しないことは明らかでした。
なんとか絵の仕事を引き継いでもらえる人はいないかという加古さんの家族の要望に、担当が鈴木まもるさんの名前を挙げたのです。
鈴木さんは鳥の巣の研究家でもある絵本作家で、様々な科学絵本を手掛けてきた加古さんの熱烈なファンでもありました。
過去には手紙のやり取りなどもしていたそうですが、実際に面識はなかったそうです。
しかし加古さんは鈴木さんの仕事を信頼しており、彼にならということですぐに納得し、苦しい容体を押して細かい打ち合わせを行い、鈴木さんも加古さんの想いに懸命に応えようと、通常数か月かかるラフの仕事を2週間で仕上げ、加古さんが亡くなるぎりぎりのタイミングでの作品完成に間に合わせたのでした。
その内容は加古さんの「子どもにもわかる内容で、水の性質を伝えなければならない」というこだわりが反映されたものです。
表現は平易に、絵は楽しく、科学的事実はそのままに。
個体、液体、気体という言葉は使わず、水蒸気を「にんじゃ」と表現したり、次々に姿を変える水の性質を役者に例えたり。
忍者や歌舞伎役者が出てくるあたりは実に加古さんらしいと感じます。
水がすべての生き物の命にとっていかに大切な役割を担っているか。
スケールは星全体に広がり、そしてその大切な資源である水を守ろうという加古さんの子どもたちへのメッセージへと繋がります。
若い頃に「子どもたちのために残りの人生を捧げよう」と決意した加古さん。
本当に最後の最後まで、未来の子どもたちのためにその人生を尽くしきった生き様には敬意の念しか湧きません。
★ ★ ★
大ファンを自認するだけあって鈴木さんの絵は実に加古さん作品と合います。
もちろん今作は加古さんの下絵をもとにしたということもあるでしょうけど、タッチや人物の表情など、加古さんを彷彿させるものがあります。
鈴木さんの他作品と比べてみるとその微細なタッチの違いがよくわかります。
加古さんの絵本作家としてのデビュー作は「だむのおじさんたち」。
そしてこの「みずとはなんじゃ?」が最後の作品。
どちらも水に関する絵本であることは象徴的ですね。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
料理人と医者のキャラクターが加古さんがモデルなの泣ける度:☆☆☆☆☆
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