【絵本の紹介】「もこもこもこ」【318冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

古本とは言え、やっぱり絵本はきれいな状態の方が望ましいものです。

色々な古絵本を扱っていると気づくのですが、「いつも傷んでいる」状態の作品というものが存在します。

 

それはつまり何度も何度も繰り返して、それもまだ本の扱いが大雑把な幼い子どもたちの手で読まれたことの証です。

ボロボロさは絵本としての勲章とも言えます。

 

そんな絵本が、今回紹介する「もこもこもこ」です。

作:谷川俊太郎

絵:元永定正

出版社:文研出版

発行日:1977年4月

 

絵本は自由度の高いメディアであり、様々な実験が試みられる分野です。

もちろん、すべての実験が成功するわけではありません。

 

単に奇をてらっただけの作品では、子どもに見向きもされないこともあるでしょう。

そんな中、この「もこもこもこ」は前衛的でありながら大変な成功を収めた傑作です。

 

発表は1977年、40年以上も前。

「絵本とは何か」

「絵本とはどうあるべきか」

などと小難しいことを考えていた大人たちは、この作品を見てどんな衝撃を受けたことでしょう。

 

出てくる言葉は「しーん」「もこ」「もこもこ」「にょき」などの擬音のみ。

異色の絵師・元永さんによる抽象画のような挿し絵。

それがどうしてこんなにも子どもたちの心を惹きつけて離さないのか、まさに魔法の絵本です。

見開きには地平線(のようなもの)が描かれ、「しーん」のテキスト。

扉も何にもなく、次のページからすぐに本編に入ります。

 

もこ」と、何かが地平線からこんもりと出てきます。

何かは「もこもこ」「もこもこもこ」と大きくなり、隣からはまた変な形の物体が「にょきにょきにょき」。

何かはその変な物体を「ぱく」と食べてしまいます。

そのように見えます。

 

で、「もぐもぐ」したら「つん」と赤いできものみたいなのが発生、それが「ぽろり」と落ちて「ぷうっ」と膨らみ、「ぎらぎら」「ぱちん!」と弾けます。

その後、空から三角形のクラゲかイカみたいな形が「ふんわ ふんわ」落ちてきて、元の地平線に戻って「しーん」。

 

そして、カバーをめくると……。

 

★      ★      ★

 

こんなんでいいのかよ」という声が聞こえてきそうですが、こんなんでいいんです。

めちゃくちゃ売れてます。

 

それに「こんなん」がいかに難しいか。

自分でも描けると思ったら描いてみたらいいと思います。

おんなじような作品を作っても、同じようにヒットするかと言えばその可能性は低いでしょう。

 

子どもは大人よりも抽象作品の理解力に優れているのかもしれません。

極限にまで削られたテキストとイラストから、無限の物語を紡ぎ出すことができるのです。

 

この作品が稀に見る傑作になり得たのは、究極すれば冒頭の「しーん」からの「もこ」に尽きます(あと、ラストのカバー裏の「もこ」)。

言葉遊び、色と形、ユーモア……様々な要素が混在し、分類不可能な独自の世界を作り出しています。

 

この変な作品が超ロングセラーなんですから、やっぱり絵本って面白い。

 

推奨年齢:0歳〜

読み聞かせ難易度:☆

謎の吸引力度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「もこもこもこ

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

絵本の買取依頼もお待ちしております。

 

〒578−0981

大阪府東大阪市島之内2−12−43

URL:http://ehonizm.com/

E-Mail:book@ehonizm.com

【絵本の紹介】「さる・るるる」【106冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

子どもを観察していて感心させられることは山ほどありますが、中でも言葉に対する彼らの感受性・吸収力の高さにはいつも驚かされます。

 

子どもは、大人の発する言葉を単に「模倣」しているわけではありません。

彼らは言葉を注意深く(そして驚嘆すべき速度で)分析し、分類し、「仮説」を当てはめ、「応用」しようと試みます。

 

我が家の例を挙げれば、息子が2歳のころ、

ふたりぼっち

という造語を用いたことがあります。

 

これは明らかに「ひとりぼっち」から推測した「派生語」です。

(たまに見かける造語ですが、息子がそれを耳にしたことはありません)。

 

また、私たち大人は、アニメDVDなどの映像を「観る」と表現しますが、息子はそれを

聞いて、見る

と毎回のように訂正していました。

 

考えてみれば、そうした行為には「音声を聞く」作業が含まれているのだから、息子にしてみれば「見る」というだけでは「足りない」と感じられたのでしょう。

 

これらのことからも、子どもが単純に大人の言葉を「コピー」しているわけではなく、(無意識に)凄まじい知的探求心でもって、解釈し、自分のものにしようと努力していることがわかります。

 

また、子どもは「韻を踏んだ」言葉が大好きで、そういう言葉を発見すると、1時間でも2時間でも繰り返して口ずさみます。

 

それは言葉の「練習」というよりは、もっと本能的な歓びに因しているように思われます。

 

つまり、子どもにとって「言葉」とは、「意味」と「音」の美しい「調和」であるべきだ、と直感されているのではないでしょうか。

そういった、子どもの詩的とも言うべき言葉への感性は、大人には及びもつかない鋭さを持っています。

 

前置きが長くなりましたが、上に述べたようなことを考慮すれば、今回紹介する「さる・るるる」が、子どもに絶大な人気である理由もわかるような気がします。

作・絵:五味太郎

出版社:絵本館

発行日:1979年11月

 

毎回遊び心が満載の五味太郎さんの絵本。

これは、「る」で終わる動詞のみでストーリーが紡がれていく作品です。

さる・くる

さる・みる

さる・ける」…

 

こう読み始めるだけで、息子は大喜びし、さるの行動を自分でも再現します。

絵だけでもじゅうぶんに物語は読めますし、何と言っても、さるが抜群にユーモラス。

さる・える

さる・せる

あたりは、子どもには少し理解しにくい動詞ですが、細かいことは気にしない。

いずれわかります。

 

子どもにとって言葉とは、「意味」以前に「響きの心地よさ」がなければならないのです。

 

推奨年齢:2歳〜

読み聞かせ難易度:☆

読み終わった後も、必ず「る」遊びが続く度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「さる・るるる

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

絵本の買取依頼もお待ちしております。

 

〒578−0981

大阪府東大阪市島之内2−12−43

URL:http://ehonizm.com/

E-Mail:book@ehonizm.com

絵本の紹介「あいうえおうさま」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

「あいうえお絵本」というのは、ある種の定番でもあり、いつの時代も新しいものが次々に出てきます。

人気シリーズなどの企画としてもよく見かけます。

 

ただ、いくら人気のキャラクターが登場しようと、ただ50音を並べただけの「お勉強」では、子どもの気を引くことなどできません。

あくまで「絵本」である以上、読んで面白いものでなければならないのです。

 

その点を、今回紹介する「あいうえおうさま」は見事にクリアしています。

文:寺村輝夫

絵:和歌山静子

出版社:理論社

発行日:1979年

 

言わずと知れた「ぼくはおうさま」シリーズの「あいうえお絵本」です。

小学校の教材として使用されていたこともあります。

たとえば「あ」のページは、

あいうえおうさま あさの あいさつ あくびを あんぐり ああ おはよう

と「あ」のつく言葉がリズムよく並び、伸びをする王さまの背景には、「あめ」「あざらし」「あさがお」など、「あ」のつくものが色々描かれています。

寺村さんが凄いのは、それぞれのページだけで十分ひとつのお話が想像できる点。

なおった びょうきを ないしょに していて なんでも なるべく なまける おうさま

なんて、いかにも王さまらしくて、思わず笑ってしまいます。

 

もちろん、言葉のテンポや響きのセンスは言うまでもなく、同じ言葉にしても、名詞ばかりではなく、動詞、形容詞、副詞などを盛り込んでいるところもさすがです。

おなじみの和歌山さんの絵も、想像力をかきたてます。

文章に登場しない背景の絵ですが、意外と読み解くのが難しいのもあります。

「む」のページの「むちうち」とか。

 

そうしたひとつひとつの絵を読むことも楽しみです。

言葉の勉強などとかしこまらずに、純粋におもしろ絵本として読んであげれば、子どもも喜ぶし、自然と言葉を身に付けると思います。

 

関連記事≫絵本の紹介「ぞうのたまごのたまごやき」

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

「ら」のページの下の絵が謎すぎる度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「あいうえおうさま

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

絵本の買取依頼もお待ちしております。

 

〒578−0981

大阪府東大阪市島之内2−12−43

URL:http://ehonizm.com/

E-Mail:book@ehonizm.com

絵本の紹介「わにがわになる」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

すぐれた絵本には、文章に韻を踏ませ、声に出して読んだときに心地よいリズムとなるよう、計算されたものが多くあります。

音楽的本能に訴えかけるのか、子どもは韻を踏んだ言葉の響きが大好きです。

 

いわゆる「ダジャレ」も、そういう言葉遊びのひとつです。

大人になると笑えなくなるような(そうでもない中高年男性も大勢いらっしゃいますが)くだらないものでも、多少無理があるものでも、子どもは大いに笑います。

それはダジャレの出来不出来を頭で考えているからではなく、耳に響く感覚で楽しんでいるからでしょう。

 

今回紹介するのは、そんなダジャレ絵本、「わにがわになる」です。

作・絵:多田ヒロシ

出版社:こぐま社

発行日:1977年2月10日

 

タイトルそのものがダジャレですが、ユーモラスな絵がその言葉の状況を説明することによって、二重に楽しめます。

はこをはこぶ

ねこがねころぶ

うまがうまれる

とか、うっかり大人が使うと軽蔑の眼差しか冷笑を向けられそうな、まごうことなき「ダジャレ」の数々。

大丈夫です、子どもはちゃんと笑ってくれますから。

 

あれはうちの息子が1歳半くらいの時でしたか、出し抜けに、

だっこ、ぺちゃんこ、れいぞうこ

と口走り、自分でゲラゲラ笑い出したことがあります。

 

こっちは親バカなものですから、

え、なにそれ、ラップ? ラッパーの才能が?

と夫婦で大騒ぎ。

 

でも考えてみればラップだってダジャレの一種です。

言葉は単に何かを意味するだけの「記号」ではなく、もっと人間の生命そのものに響きをわたらせる力のある「音」です。

自信を持ってダジャレを飛ばしましょう(周囲の反応に責任は持てませんが)。

 

推奨年齢:0歳〜

読み聞かせ難易度:☆

ベタベタ度:☆☆☆☆☆

 

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

絵本の買取依頼もお待ちしております。

 

絵本専門の古本屋 えほにずむ

〒578-0981

大阪府東大阪市島之内2-12-43

URL:http://ehonizm.com

E-Mail:book@ehonizm.com

絵本の紹介「ぶたたぬききつねねこ」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は言葉遊びの絵本を紹介します。

ぶたたぬききつねねこ」(作・絵:馬場のぼる、こぐま社)です。

作者は「11ぴきのねこ」シリーズでおなじみの馬場のぼるさん。

というか、この絵本のねこが、そのまんま「11ぴきのねこ」と見た目いっしょですね。

 

タイトルで分かる通り、「しりとり」絵本です。

おひさま」ではじまり、「まど」「どあ」「あほうどり」……と続きますが、それらの絵が、ちゃんと物語になっていて、言葉のわからない子どもでも、絵を追っていくだけで楽しめるよう工夫されています。

つまり「読める絵」です。

幼い子に向けた絵本の挿絵とは、こうでなくてはならないと思います。

 

ストーリーはいくつかに分断されていて、初めは「あほうどり」が「りんご」をつつくと中から「ごりら」が出てきて、「らっぱ」を吹くと「ぱいなっぷる」が飛び出す、というもの。

わけわかりませんけど、なんだか楽しい。

自然に言葉を覚えるのにも役立ちますが、別に「おべんきょう」の本ではありません。

子どもは言葉遊びが大好きです。

たとえ完全に「しりとり」のルールを把握できていなくても、次々と言葉が紡がれていくだけで、喜んで大笑いする子も多いと思います。

 

じゅうぶん0歳から読んであげられる絵本だと思います。

もちろん、「しりとり」ができるようになってからもう一度手に取れば、また新しい面白さを味わうこともできるでしょう。

 

ちなみに、後半は冬の描写が続き、最後は「くりすます」で終わりますので、この季節の絵本としてもぴったりですよ。

 

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り揃えております。

ぜひ、HPも併せてご覧ください。

絵本の買取依頼もお待ちしております。

 

絵本専門の古本屋 えほにずむ

〒578-0981

大阪府東大阪市島之内2-12-43

URL:http://ehonizm.com

E-Mail:book@ehonizm.com

1