【絵本の紹介】「ルンバさんのたまご」【474冊目】

 

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

ちょっと息子が体調を崩しまして、やっと治ってきたと思ったら妻が熱を出し、色々と私生活がバタついております。

まだまだコロナには油断できませんし、小学校などではインフルエンザも流行しているようですので、皆様もどうぞお体に気を付けてお過ごしください。

 

さて、今回は以前から紹介してみたかった「ルンバさんのたまご」を読みましょうか。

作・絵:モカ子

出版社:ひかりのくに

発行日:2013年4月

 

10年以上前の作品ですが、絵本界では10年はまだ新作(言い過ぎかな)。

作者のモカ子さんはこの作品でデビューということで、やっぱりまだまだフレッシュな作家さん。

 

現代風のいかにも可愛らしい絵柄や細部の描きこみ、ほのぼのとしていながらどこかシュールさも漂う世界。

独特のユーモアが効いています。

 

まず、主人公の「ルンバさん」ですが、正体が不明。

たまごとにわとりのお話なんだろうと思って読むと、どうもそうではない。

にわとりの被り物や羽を身に付けていますが、脱いでしまうと何やら斬新なヘアスタイルの謎の生き物なんですね。

 

このルンバさん、ひよこが大好き。

その「好き」の方向が見ようによっては偏執的で、いわばひよこマニア。

 

げっかん ひよこ」のプレゼント企画に応募し、それが当選。

巨大なたまごが届きます。

さあルンバさんは大喜び。

一生懸命たまごを温めるとたまごはずんずん大きくなって…

105つご」のひよこちゃんが孵化します。

ひよこたちはルンバさんをおかあさんと認識。

 

ルンバさんはひよこたちにご飯を用意したり、一緒に遊んだり、お風呂に入ったり。

思う存分愛情を放出し、幸せな気持ちでひよこたちと眠りにつきます。

 

★            ★            ★

 

ひよこちゃんたち可愛い。

ちゃんと105ひき描きこまれていますし、一匹一匹見ていくだけでずっと楽しめます。

 

その上で、これはむしろ褒めているんですけど、やっぱりどこかに狂気を孕んだ絵本だと思うんですね。

上記したようにルンバさんはにわとりではなく、ひよこが好きで好きでたまらないけど自分ではひよこたちの母親にはなれない。

 

いわばひよこたちの里親となるわけです。

105つごワンオペなんて子育て経験のある親からしてみれば想像しただけで頭がおかしくなりそうな状況ですけど、ひよこ愛MAXなルンバさんは幸せいっぱいで世話に励みます。

 

考えてみればこれを単純に母子の物語にしてしまうと、旧態依然とした「母性幻想の押し付け」となりかねませんが、ルンバさんが100%自分で望んだ環境という設定のおかげでそこは回避されていると言えるでしょう。

前述したマニア的な偏愛も、現代的な愛情の在り方を肯定的に捉えた多様性の尊重と読むこともできます。

 

しっかり人気作になって続編も出ていますので、この世界が好きな方は是非に。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

ひよこ愛度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ルンバさんのたまご

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「やまたのおろち」【473冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は日本神話より「やまたのおろち」を紹介します。

文は映画監督の羽仁進さん、絵は安定の赤羽末吉さん。

文:羽仁進

絵:赤羽末吉

出版社:岩崎書店

発行日:1967年

 

知らない人はいないほど有名な神話のひとつだと思っていますが、最近の若い人はどうなのでしょうね。

その存在くらいは知っていても、細かいエピソードについては何も知らない人も多そうです。

そういう私も別にさほど詳しいわけではありませんが。

 

しかしながらこのやまたのおろちの伝説を幼い頃に絵本で読んだ時の興奮とインパクトは忘れることができず、ずっと心に残っていました(その当時読んだ絵本の絵は覚えているのですが、残念ながら見つけることはできていません)。

 

何と言ってもやはりやまたのおろちの造形とスケールが怪獣好きの子ども心に刺さります。

かっこよすぎません?

 

キングギドラもびっくりの八つの頭を持ち、その巨大さたるや八つの谷、八つの峰にまたがるほど。

表面に苔や杉を生やし、生贄に女を要求し、酒も飲む。

女好きの酒好き怪獣ですね。

口から炎を吐くところも実に怪獣らしくていい。

 

この怪物と戦う主人公はスサノオノミコト。

神話によくある暴れ者タイプの神で、乱暴が過ぎて姉である天照大神の不興を買い、下界に追放されます。

人間臭いですね。

 

追放者スサノオは川を上って村へたどり着きます。

そこで泣いている村人に事情を聞くと、やまたのおろちという怪物が娘を食べにやってくるのだといいます。

その娘はクシナダヒメといい、すでに七人の姉がおろちに食われたといいます。

 

スサノオは自分がそのおろちを退治してやろうと引き受けます。

スサノオは乱暴者ですが兵法も心得た知恵者で、八つの瓶に毒を混ぜた強力な酒を用意しておろちを待ち構えます。

やがてその恐ろしい姿を現したやまたのおろちはあっさりとこのトラップに引っ掛かり、酒を飲み始めます。

知能のようなものはほとんどないらしい。

 

けれどもその生命力は半端なく、毒をもってしても死なず、ただ眠りこけてしまいます。

スサノオはそこへ襲い掛かりますが、おろちは目を覚まし、炎を吐いて応戦します。

絵本によってはここの戦闘シーンをあっさり終わらせているものもあり(眠ったおろちを切り殺すだけとか)ますが、この作品では実に6ページにわたって苛烈な戦いが描かれます。

映画監督らしい臨場感ある場面と、赤羽さんの生き生きとした絵筆が見どころです。

ついに勝利するスサノオですが全身に八十八もの傷を受けます。

八という数字にこだわるあたりも神話あるある。

 

クシナダヒメの賢明な看護で傷は癒え、二人は結婚します。

やがて子どもも生まれ、彼らは山の奥で鉄を見つけて道具を作り、蚕を飼って絹糸を作り、出雲の国に村を興します。

 

★            ★            ★

 

おろちの体内から発見される草薙の剣は別名雨の叢雲、有名な伝説ですね。

これについては様々な解釈がありますが、物語最後にも描かれる通り製鉄技術の発展や鉄文化との関りを指摘されています。

 

神話や民話は全てが象徴的ですから、八という数字や蛇、櫛、酒といったワードにも何かしらの意味があるのだと考えられます。

そうしたことも含め、想像力をかき立てられる物語です。

 

そして海外にも悪役としての蛇の怪物の登場する伝説は見られます。

酒を飲ませて退治する神話もあります。

 

こうした類似点は単純に海を渡って物語が伝わったというより、人間に共通する根源的なイメージや心魂的に通じる象徴なのだと考えられます。

などとあれこれ考察する楽しみもありますけど、やっぱりやまたのおろちの怪獣っぷりが単純に魅力的ですねえ。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

戦闘シーンの濃密さ度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「郵便屋さんの話」【472冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのはカレル・チャペックさんの童話原作絵本「郵便屋さんの話」です。

作:カレル・チャペック

訳:関沢明子

画:藤本将

出版社:フェリシモ出版

発行日:2008年3月21日

 

カレル・チャペックさんはチェコを代表する劇作家・小説家で、画家・評論家の兄ヨゼフさんと共にチャペック兄弟として広く親しまれています。

「ロボット」という単語の創始者であるともされています。

 

SFから童話まで様々な作品を残しましたが、彼らが生きた時代は大戦の最中で、チャペックさんは作品内でナチズムを痛烈に批判し、そのためにゲシュタポから敵認定され、狙われたこともあります。

 

この「郵便屋さんの話」は1932年に発表された童話集の中の一篇に、イラストレーターの藤本将さんが新たに挿絵を書き下ろして出版された絵本です。

 

主人公のコルババさんは郵便配達人。

このところ自分の仕事にうんざりし始めております。

毎日、二万九千七百三十五歩も歩かなければならないし」「そのうちの八千二百四十九歩は階段をのぼったり、おりたり」と、具体的な数字を持ち出して嘆くユーモアのあるおじさん。

 

ある時郵便局で居眠りしてしまい、仲間たちが帰ってしまった夜更けに目を覚ますと、何やら気配がします。

様子を窺うと、そこには郵便局に住む妖精の小人たちが忙しく働いていたのです。

小人たちは仕事が一段落するとカードゲームを始めます。

 

カードとして用いられるのは郵便局にある手紙。

不思議な遊びに思わずコルババさんは小人たちに話しかけますが、小人たちは悪びれもせずコルババさんをゲームに誘います。

手紙には何の数字も書いてませんが、小人たちは中にある手紙の種類によって札の強さを決めているのです。

一番強いエースは愛情のこもった手紙という風に。

そして小人たちは封を切らなくても中の手紙の内容を温度で知ることができるというのです。

そんなことがあってしばらく後、郵便局に宛名のない手紙が届きます。

差出人も不明で、配達もできないけれど、コルババさんはなんとなくその手紙が温かく感じられ、きっと心のこもった手紙のはずだと思います。

かといって勝手に中を開けることは郵便局員としてやってはならないこと。

 

そこでコルババさんは小人の助力を頼みます。

小人は封を切らずして中の手紙を読みます。

それは若者が恋人にあてた手紙でした。

若者の名はフランチーク、職業は運転手。恋人の名はマジェンカ。

 

ただそれだけの手がかりをもとに、コルババさんはこの手紙をマジェンカのもとに届けてあげようと決意します。

長い長い旅を続け、探し回りますが見つかりません。

一年以上も探し回って、疲れ果てたコルババさんが座り込んでいると、立派な紳士が車を止めてコルババさんを送ってあげようと声をかけます。

コルババさんはありがたくその車に乗ります。

そして話をするうち、車の運転手の素性がわかります。

 

彼こそ探し求めていたフランチークだったのです。

彼は愛する恋人から手紙の返事がこない悲しみに沈んでいました。

そこでコルババさんは手紙を預かっていることを打ち明け、自動車は一路マジェンカの家を目指して走り出します…。

 

★            ★            ★

 

冒頭ではいわゆる靴屋の小人的な童話かと思いますが、そうではない。

人生や仕事の喜びについて、人の想いについて、色々なことを考えさせてくれるハートフルなお話です。

 

コルババさんは実に粋でチャーミングなおじさんですが、そこは藤本さんのイラストの力も大いに作用しています。

センスがあって人物が本当に可愛い。

異国情緒もあり、チェコで描かれた絵本だと言われても違和感がありません。

 

チェコと言えば絵本大国としても知られており、なおかつチャペックさんのような童話作家も生み出した素晴らしい国です。

まだまだ翻訳されてない名作はありそうですね。

 

推奨年齢:7歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

一年がかりの配達の報酬が切手代だけのコルババさん男前度:☆☆☆☆☆

 

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