【絵本の紹介】「ゼラルダと人喰い鬼」【236冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのはトミー・ウンゲラーさんの「ゼラルダと人喰い鬼」です。

作・絵:トミー・ウンゲラー

訳:田村隆一・麻生九美

出版社:評論社

発行日:1977年9月10日

 

その独創性・表現力・物事の本質を見極める目の確かさ・色使いの妙・構成の見事さ……。

他の追随を許さぬ絵本作りの名手、ウンゲラーさん。

 

これまでにこのブログでも何回か彼の作品を取り上げてきました。

 

ウンゲラーさんの唯一無二性は、彼の題材選びにあります。

ちょっと絵本作品としては選びにくい主人公やテーマを掬い出し、鋭い風刺の目と、確かな構成力、画力によって実に鮮やかに仕上げるのがウンゲラーさんの凄いところ。

 

ユーモアを交えつつ、あまりにもさらりと描かれているので、うっかり見過ごしかねませんけど、これは相当難しい作業だと思います。

この「ゼラルダと人喰い鬼」は、そんな作品群の中でも特に異質な題材の絵本です。

 

あっさり説明してしまえば、「恐ろしい人喰い鬼が、純粋な少女の力によって改心する」という、王道的童話なのですが、最初のページの人喰い鬼の恐ろしさと言ったら、とてもとても改心しそうには見えません。

 

血の付いたナイフを手に笑う凄まじい形相。

朝ごはんに子どもを食べるのが、何よりも大好き」という残酷な怪物。

檻から子どもの手だけが見えるのも、一層恐怖を煽ります。

 

町の人々は人喰い鬼を恐れて、子どもたちを隠します。

腹を空かせた怪物の前を通りかかったのは、ゼラルダという料理の得意な少女。

 

これ幸いとゼラルダを取って食おうとした怪物ですが、足を滑らせて崖から滑落。

町から離れた森の開拓地に住むゼラルダは、人喰い鬼の噂など何も知りません。

怪我をし、空腹で動けない怪物を哀れに思い、得意の腕を振るってご馳走を食べさせてあげます。

 

初めて食べるご馳走の味に驚いた人喰い鬼は、ゼラルダを食べる気をなくし、自分のお城に誘います。

人喰い鬼の財力にあかせて、ゼラルダは次々とおいしい料理を作ります。

人喰い鬼は大喜びで、近所の人喰い鬼を招待します。

怪物たちはみんなゼラルダの料理に感激し、子どもを食べることを止めてしまいます。

そして月日が流れ、とうとう人喰い鬼はゼラルダと結婚。

子どもを授かり、末永く幸せに暮らすのでした。

 

★      ★      ★

 

どうです、ラストの人喰い鬼の笑顔。

この鮮やかな転換は、「すてきな3にんぐみ」に通じるものがあります。

 

≫絵本の紹介「すてきな3にんぐみ」

 

しかし、よくよく考えてみれば、この人喰い鬼は改心したというわけではないのかもしれません。

最初から最後まで、彼の動機となっているのは「食欲」オンリーのように見えます。

 

まあ、町の子どもにお菓子を配ったりしてますし、文にない部分の怪物の心情は想像する他ありませんが。

そもそも、いくら子どもを食べることをやめたところで、それまで彼が数々の子どもを喰らった事実は変わりませんし、その罪はどうなるの? という疑問も残ります。

 

これは「すてきな3にんぐみ」も同様で、どろぼうたちは別に改心したわけではないのかもしれないし、最後に善行を施したからといって、それまでの罪が帳消しになるわけではないとも考えられます。

 

私たちはこれらの童話を「悪人が愛によって改心する」という定型に落とし込んで解釈したがるので、このラストにはどうしても釈然としない気分が残ります。

 

ウンゲラーさんはそれを承知の上で、上っ面の勧善懲悪を跳ね除けます。

自分と文化も感覚も異なる、理解を絶した「異邦人」に対し、己の「常識」や「正義」や「道徳」を持ち出してきても、ただ争いが起こるだけです。

そうした「異邦人」と共生する手段として、「食」という身体に根ざした欲求を持ってくるところが、この物語のリアリズムなのです。

 

そういう点を見逃して、「愛は偉大なり」的な読み込みをする大人に対する、ウンゲラーさんのとびっきりの「毒」が、最終ページに仕込まれています。

ゼラルダと人喰い鬼の間に生まれた子どもが、後ろ手に隠し持っているのは……。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

グルメ絵本度:☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ゼラルダと人喰い鬼

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【絵本の紹介】「ぼく、だんごむし」【235冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

子どもの頃、虫は好きでしたか?

カブトムシ、クワガタ、セミ、トンボ……。

 

そういう大御所に比べれば目立たないけれど、子どもに人気のある虫と言えば、だんごむしではないでしょうか。

割と簡単に発見できて、観察してて面白い。

見た目もあんまり気持ち悪くなくて、触りやすいし。

 

しかし、その生態については意外と知られていません。

かくいう私も、この絵本を読んで初めて知ったことがたくさんありました。

ぼく、だんごむし」です。

作:得田之久

絵:たかはしきよし

出版社:福音館書店

発行日:2005年4月15日(かがくのとも傑作)

 

作者の得田さんは昆虫少年として幼児期を過ごし、大学時代に昆虫を描き始め、虫に関する絵本を多数発表しています。

どれも深みがあって、大人でも「へえ」と面白く読める作品ばかりです。

 

得田さんは自分でも絵を描きますが、この「ぼく、だんごむし」では、たかはしさんに絵を任せています。

色鮮やかなコラージュで描かれた虫の絵は程よくリアルで美しく、虫嫌いの人にも読み易いと思います。

文はだんごむしくんの一人称で、自己紹介的に語られます。

林や草むらより、町中のほうが棲みやすいというだんごむし。

 

その理由は、彼らのえさ。

枯れた植物や虫の死骸に加え、人間の出す新聞紙や段ボール、コンクリートや石まで食べるのです。

だから、人間の暮らしているところのほうが棲みよいのですね。

敵に襲われたら、その名の通り、体をボールみたいに丸めて身を守ります。

これは有名。

 

でも、脱皮した抜け殻を食べたり、白っぽい赤ちゃんを産むことなどはあまり知られていないのではないでしょうか。

この図はちょっとキモチワルイですが。

そして、意外と盲点なのが、だんごむしが実は昆虫ではないということ。

そう言われたら、足の数が違いますね。

 

なんと、彼らは「かにや えびの なかま」の甲殻類。

水にも強いのです。

 

★      ★      ★

 

いかに自分が何にも知らないかを痛感する一冊でした。

だんごむしのあっぱれな食欲、生命力。

 

単に面白がって虫遊びをするところで終わる子どもと、飽くなき探究心を発揮して、深い科学知識を求める子どもの分水嶺はどこにあるのでしょう。

これは結構大事なところのような気がします。

 

ある程度のところで「まあいいか」と納得するか、とことん調べて、考え抜くか。

わからないことや疑問に感じたことを、そのままにしておいて平気な人と、そうでない人。

そういう姿勢の違いが、その後の人生の様々な場面で、大きな差になるのかもしれません。

 

「すぐに調べる」ことが習慣となっているかどうか、そして「調べる方法」を知っているかどうか。

子どものうちに、「調べて納得する」経験を何度も積んでおくことは、非常に重要だと思います。

 

それをサポートする周囲の大人の役割も大きいでしょう。

子どもの知識欲や探究心に火がついている状態を見逃さず、的確に知的な成功体験をさせてやることが求められます。

 

我が身を振り返ればわかると思いますが、子どもが内面にそうした炎を宿す時間はとても短いものです。

その「旬」を逃してしまえば、もう一度点火することは難しくなります。

けれども、どの子どもにも一度は必ず、その「旬」は訪れるはずです。

 

どんなに忙しくとも、子どもの発する質問には真摯に答えてやりたいものです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

目からウロコ度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「おっぱいのひみつ」【234冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は月刊科学絵本「かがくのとも」傑作集より、「おっぱいのひみつ」を紹介します。

作・絵:柳生弦一郎

出版社:福音館書店

発行日:1991年3月6日(かがくのとも傑作集)

 

人体に関する絵本を、平易な文章とインパクトのある絵で描くスタイルの柳生弦一郎さん。

ところどころに「おふざけ」要素を交えながら、実は至って誠実な科学絵本です。

 

どうして おとこのひとは ブラジャーをしないの?

だって、おっぱいが おおきくないもの

 

子ども目線の素朴な疑問からスタートし、「おっぱい」とは何かに迫ります。

女の人のおっぱいが大きいのは、「あかちゃんに おちちを あげるため」。

その準備として、10歳ごろからおっぱいが膨らみ始めるのだということを教えてくれます。

母乳の出る仕組みについても(とても精密な図とは言えませんが)図解で説明。

 

そして、おっぱいが単に赤ちゃんの食事としての機能だけでなく、「心の栄養分」でもあることに触れます。

それはスキンシップの重要性に繋がります。

乳房に吸い付いたり、舐め回したり、手でぎゅっと触ったりすることは赤ちゃんにとってもお母さんにとっても「とても だいじなこと」。

あったかくて やわらかくて とても いいきもち!!

 

★      ★      ★

 

どの家庭もそうでしょうけど、授乳に関しては、我が家も色々と思い出があります。

産まれたばかりの息子は口が小さくて、うまく母乳を吸えませんでした。

加えて、妻の母乳の出も良くなく、粉ミルクに頼らざるを得ない状況でした。

 

この絵本で言及されているように、授乳行為が重要なスキンシップであること、それが赤ちゃんの情緒面の発達にとって非常に良い影響を及ぼすことは広く知られています。

息子が生まれる前から、妻はできることなら100%母乳で育てること、そして自然に乳離れするまでは母乳を与え続けることを望んでいました。

 

しかし、上記のような事情に加え、数時間おきの授乳による睡眠不足、産後うつ、さらに息子には乳首を噛む癖があって、それがとんでもなく痛いというので、結局1歳過ぎたころに断乳しました。

 

それは仕方のないことでしたが、妻は今でもそのことを悔やむことがあります。

息子の反抗がひどい原因はそこにあるんじゃないか……などという考えがよぎったり。

 

でも、それはあまり生産的でない考え方だと思います。

母乳育児は素晴らしいことには違いありませんが、それが全てではないし、それだけが問題なわけがありません。

 

母乳に限らず、育児に関する母親の神秘性みたいなものを賛美し過ぎると、結局のところ母親一人に負担がかかり過ぎるし、ひどい場合には子育てに積極的でない女性に対するバッシングに繋がったりします。

 

子どもをどう育てるかについての判断は最大限個人の自由に委ねるべきだと思います。

「母乳が素晴らしい」と言うことと「母乳で育てなければならない」と言うことは全然違うことです。

 

この絵本の巻末の「おかあさんによんでもらうページ」には、八王子中央診療所所長の山田真氏の文が掲載されています。

そこに「あかちゃんにおちちをあげることのできないおかあさん」について、「人間はひとりひとりちがっているのですから、そういうおかあさんがいても、ちっともおかしくはないのです」と書かれています。

 

読み聞かせをする際には、必ずこの最終ページを併せて読んで下さい。

この一文があることで、この絵本は真に科学的でありうるのだとさえ言えます。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

照れずに読もう度:☆☆☆☆

 

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