【絵本の紹介】「ぬまのかいぶつボドニック」【388冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

連休も明け、やっと涼しくなってきましたね。

体調を崩さないように今週もぼちぼち頑張りましょう。

 

今回紹介するのは「ぬまのかいぶつボドニック」です。

作・絵:シュテパン・ツァフレル

訳:藤田圭雄

出版社:ほるぷ出版

発行日:1978年7月10日

 

深い水の底を思わせる暗い青を基調とした水彩作品です。

表紙でパイプをくわえているのが「ボドニック」。

 

紳士風の身なりをしており、顔色が悪い他はさほど「かいぶつ」らしさはありません。

造形もコミカルで可愛らしいとも言えます。

 

けれどもこれがなかなかの外道。

民話風の長めのテキストと全編通した薄暗い色調も相まって、一種独特なダークファンタジー風の世界を構成しています。

 

森の奥の沼を棲み処とするボドニックは、近付くものを片っ端から水の底に引きずり込み、その魂を壺に入れて隠しているという恐ろしい怪物です。

沼のそばの水車小屋にはマンヤという娘がひとりで暮らしていました。

ある時、ボドニックがマンヤの前に姿を現し、「おまえは おれとけっこんするんだ」と一方的に告げます。

 

マンヤは当然拒否します。

そしてホンツァという青年のプロポーズを受け入れ、二人は結婚式を挙げるため村へ向かいます。

 

怒ったボドニックは二人を襲撃し、水の底に沈めます。

ホンツァは「あたまのふたつある みにくいさかな」に変えられてしまいます。

こうしてマンヤは無理矢理ボドニックと結婚させられてしまいます。

ボドニックはマンヤに様々な仕事をさせ、真珠を探してくるように言いつけます。

水の底をさまようマンヤに、魚に変えられたホンツァが話しかけ、脱出計画を立てます。

マンヤはかつて家に泊めてあげたおばあさんからもらった「まほうの たから」を三つ持っていました。

くびまき」「はい」「なわ」です。

 

その首巻をボドニックの首に巻くと、ボドニックは眠りこけ、そのすきにマンヤはホンツァをもとの姿に戻すために必要な壺を取って逃げます。

ホンツァは無事に人間に戻り、二人は逃げ出す前に他の壺に封じ込められている人たちの魂も助けるため、壺を壊して回ります。

そこでボドニックが目を覚まし、手下のうなぎやかにと共に追いかけてきます。

マンヤは残りの宝を使いながら難を逃れ、際どいところで沼から這い上がります。

 

怒り狂ったボドニックは沼から飛び出してさらに二人を追いますが、太陽の光を浴びて消滅してしまいます。

こうしてマンヤとホンツァはめでたく結ばれ、幸せに暮らすのでした。

 

★      ★      ★

 

作者の独創か、原作となる民話があるのかは知りませんが、王道的昔話の物語形式をとった絵本です。

 

異形の怪物が主人公を妻としようとする婚姻譚である点。

主人公が「3つの呪具」を与えられ、それを駆使して難を逃れる点。

 

人間の魂を壺に閉じ込めたり、魚の姿に変えてしまう怪物からの逃走劇はなかなかにスリリングで怖いです。

それだけに面白い。

 

しかし何といっても印象深いのは(そして作者自身がもっとも描きたかったであろうことは)ボドニックのキャラクターでしょう。

残酷で恐ろしく、愛する者同士を引き裂き、怒りっぽくて嫉妬深く、執念深い怪物。

しかし一方でボドニックには常にある種の悲愴感・孤独感がつきまといます。

 

その暗黒の心と同様、醜く歪んだ自分の姿を派手な衣装で飾り立て、美しいマンヤに恋い焦がれ、ライバルを醜い姿に堕とさずにはいられない。

おそらくボドニックは自分の醜さを自覚しており、嫌悪しています。

 

それがこの怪物がまとう悲愴感の源です。

子どものころから想い続け、大人になるのを待って迎えに行ったマンヤから「あなたは びしょぬれだし きみがわるいし それに みどりいろだし」と悪しざまに撥ねつけられるボドニック。

怪物が太陽を忌避するのは、醜い己の姿が白日の下に晒されるのを恐れるからです。

けれども一方で怪物の捻じくれた心は、明るく美しい太陽(マンヤ)を求めずにはいられません。

 

怪物の悲愴と孤独は、その断末魔のシーンで明確に描かれます。

かいぶつは へなへなになって ふるえだし かなしそうなこえをだして ぬまのほうをみました

もう おそかったのです。ひとあし あとずさりをしましたが それが さいごでした

 

怪物が永久に消えてしまったことで、聞き手の子どもたちはほっと安心するでしょう。

けれども私のような大人は、己の内の醜い心から生み出されたようなボドニックの哀れな最期に対し、一掬の涙を注がずにはいられないのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

靴を仕立てるボドニックのいじらしさ度:☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ぬまのかいぶつボドニック

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「いつもちこくのおとこのこージョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシー」【387冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はジョン・バーニンガムさんの絵本を紹介しましょう。

長いですよ。タイトルが。

いつもちこくのおとこのこ−ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシー」です。

作・絵:ジョン・バーニンガム

訳:谷川俊太郎

出版社:あかね書房

発行日:1988年9月

 

もうこのタイトルだけでも面白そうで手に取らずにはいられないですね。

外国の名前はファーストネームやらミドルネームやら色々と長いけれど、それをあえて略さずに忠実に表記するだけでなんだかユーモラス。

しかもこの長い名前は文中で何度も繰り返して唱えられます。

 

ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシーは表紙の男の子の名前ですけど、彼の前にいるのは学校の先生。

何やら悪魔的な顔と魔術師的な指先、それにいささか巨大なデフォルメによって、主人公の長い名前がまるで呪文のように聞こえてきます。

 

谷川さんの訳文もリズミカルで、絵本の王道的繰り返し展開が心地よく読めます。

ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシー、おべんきょうしに てくてく でかける

ところが途中の道でわにがマンホールから現れて、ノーマンのかばんに食いつきます。

ノーマンは手袋の片方を犠牲にかばんを取り戻し、学校へ向かいますがすっかり遅刻。

先生はノーマンに遅刻と手袋紛失の理由を問いただします。

 

ノーマンは正直に起こったままのことを話します。

しかし、そんな話を先生が信じられるはずがありません。

このあたりでは げすいに わになど すんでおらん。いのこりして <もう わにの うそは つきません、てぶくろも なくしません。>と 300かい かくこと

と罰を与えます。

ノーマンはその通りにします。

 

そしてまた別の日、学校へ行く途中でノーマンは、今度はライオンにズボンを食いちぎられ、木に登ってやり過ごします。

もちろんまた遅刻。

先生はノーマンに遅刻の理由を問いただし、ノーマンはまた正直にありのままを答え、もちろん先生は信じずに罰を与えます。

 

そしてまた別の日、今度はノーマンは通学途中に高潮に呑み込まれて遅刻。

先生に罰を受けます。

淡々と繰り返されるありえない出来事。

あまりにも不運なノーマンが気の毒だけど面白い。

さあ次は何が起こるのか……と思っていると、今度は何も起こらず、ノーマンは遅刻しません。

 

ところが、教室に入ってみると先生がゴリラに捕まって屋根にいます。

ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシー、わたしは おおきな けむくじゃらの ゴリラに つかまって やねに おる。すぐに わたしを おろすこと

と先生はこんな状況でも命令口調で言いますが、ここでノーマンはさらっと、これまで自分が先生に言われた通りに

おおきな けむくじゃらの ゴリラなんてものは このあたりの やねには いませんよ

とスルーするのでした。

 

★      ★      ★

 

ユーモアの中に大人がドキッとするようなスパイスが効いた作品です。

不条理な目にあってもどこか飄々としたノーマンが、最後の最後に無理解な先生にお返しをする痛快な物語……というのが一読した印象かもしれませんが、この先生がどこか憎めないんですね。

 

それはキャラクターデザインや滑稽なオーバーアクションによるところも大きいけれど、バーニンガムさん独特の人間理解がそうさせているように感じられます。

バーニンガムさんの絵本にはいつもある種の突き放したような素っ気なさがあり、問題提起のようなものはあるけれども「こうなるべき」という説教臭さは微塵もありません。

そのことがかえって彼の作品を限りなく優しいものに仕立てています。

 

ノーマンの正直な告白を頭から信じようとしない無理解な先生は世間の大人の代表です。

飄々と振舞いつつ、世間の仕組みに抗う力はまだないノーマンはまさに世の子どもの代表です。

 

子どもには次々と驚くべき事件が起こり、子どもたちはそれを飄々と受け入れます。

大人たちはすでにそんな瑞々しい感性を失い、子どもたちをどう管理するかしか頭にありません。

 

でも、かといってバーニンガムさんは「だから大人は駄目なんだ」とは言わないのです。

ただ「そういうもの」として大人と子どもの「断絶」を飄々と受け入れ、描きます。

 

この構図は「なみにきをつけて、シャーリー」にも見て取れます。

 

≫絵本の紹介「なみにきをつけて、シャーリー

 

ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシーは淡々と「おべんきょうしに」出かけていきます。

ワニやライオンや高潮に襲われ、先生に何百回もの反省文を書かされ、彼は結局何を学んだのでしょう。

 

それはラストシーンにおける「…なんてものは このあたりには いませんよ」という、(それまで自分が言われ続けてきた)返答です。

こうして子どもは世間知を身につけ、やがては大人になります。

そしてやっぱり次の世代の子どもに向かって、あの先生のような態度に出るのかもしれません。

 

繰り返しますが、バーニンガムさんはそれを「悪いこと」としては描きません。

「そういうもの」だと、そっと示すだけです。

 

さりとて、この大人と子どもの断絶は永遠に繰り返されるものとは限りません。

ノーマンが学んだことは他にもあるからです。

それは「この世には思いもよらぬことが実際に起こり、そしてそれは体験したものにしか理解できない」ことです。

 

この絵本における未来への可能性というか光のようなものはそこにあります。

最後にノーマンは「もっと おべんきょうしに」出かけていきます。

まだ学びが終わっていないことそのものが、人間の希望なのです。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

名前の響きの心地よさ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「いつもちこくのおとこのこージョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシー

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オープン4周年のお礼と7歳までの育児報告

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

たくさんの人たちに支えられ、当店もオープンから4年目に突入しました!

相も変わらずごく小規模に、好きなように好きなことだけをやらせてもらってる絵本屋ですけれど、お客様・このブログの読者様から温かい言葉をかけられることもあり、本当にありがたく思っております…。

今年は誰にとっても辛いことの多い年であり、私も色々と考えたり悩んだりしている間にもう9月か…というのが実感です。

これまでの生活が一変し、すっかり疲れてしまった方々もいるでしょう。

私も仕事をする手、ここで文章を書く手が何度となく鈍り、こんなことを続けていてもしょうがないんじゃないか、と気持ちが下がってしまうこともありました。

 

それでも時折いただける励ましの声や感謝の声が、私を何度でも救ってくれました。

少々更新頻度は下がっておりますが、最低週一の更新は維持していく所存です。

絵本紹介もまだ400冊目に行ってませんね…。

すっかり遅くなってしまいました。ネタはいくらでもあるんですけど、他にあれこれ書くことができたりして、やや停滞気味ですね。

 

さて、お店の4周年と同時に息子は7歳となりました。

ついに小学校1年生になったというのに実質ひと月くらいしか学校に行ってない事情は過去記事を参照。

 

≫1年生になれなかった話

≫小学校デビュー

≫小学校生活の近況

≫再びの自主休校

 

また、これまでの育児レポートも併せて読んでいただければと思います。

 

≫3歳までに絵本を1000冊読み聞かせたら

≫絵本の海を泳ぐように。【4歳までの読み聞かせ育児レポート】

≫読み聞かせ育児・5歳まで

≫絵本の森で6年間。【絵本と育児・6歳まで】

 

私が漠然と「小学校へ通うようになったら自然と息子も精神的に成長するだろう」と考えていたのは甘かったようで、というかほとんど学校へ行ってないわけだからしょうがないのかもしれませんが、息子は相変わらずです。

 

同級生に比べて賢いとか聡いというようなところは微塵も感じられません。

集中的読み聞かせという一応幼児教育的なことを実践しているわけだから、そういう方面で天才的な才能の片鱗で見られればここでドヤ顔もできるんですけどね。

↑息子の絵日記。完全に漫画。

この後8Pに及んで一日の出来事を綴っていますが、正直言って説明してもらわないと何書いてるのかほとんど意味不明。

「他人にわかりやすく説明する」というのは一種の訓練が必要ですから、学校へ行ってないとそういう面も成長が遅くなるのかな。

 

本当はこういう状況でなくとも、学校に頼る気持ちはないほうがいいのかもしれません。

息子はこれからますます色々なことに興味を示すだろうし、またそれを支援し、伸ばしてやらなければなりません。

正直言うと、それがしんどいです。

 

学校へ行ってれば、勝手に色々と刺激を受けて「あれがしたい」「これが知りたい」「あそこへ行きたい」と息子の方から自発的に言ってきたかもしれない。

そうであれば私はそれを全力でサポートしてやればよかったんですが、家だけで過ごしてる以上やはりこっちが様々な「ボールを投げて」息子の様子を見なければいけません。

 

でも、私が投げられるボールなど球種が限られています。

もっとも学校へ行ってるからといって、せいぜい興味を示すのは友だちの持っているゲーム機くらいの可能性も否定できませんが……。

↑息子のブロック作品。宇宙探査機シリーズの惑星探査カーだそうです。

 

家遊びでブロックやら折り紙やらあやとりやら切り紙やら、手先はまあまあ器用になってきました。

でもやっぱり運動不足が心配です。

夏の間に二回ほど川遊びへ連れて行ったんですが、これからはせめて月一回は山や川で遊ばせてやりたいと思っています。

しんどいけど。

 

あとはやっぱり本の力ですね。

最近少しずつですが、また絵本をいっしょに読む機会を増やしています。

以前とは比べ物にならない頻度ではありますが。

息子も自分で読むことが増えているので、児童書や科学書などをどんどん仕入れていかないと。

 

また、私自身ももっと本を読まないといけないと感じています。

なおかつ、口で言ったり頭で考えたりしてるだけでなく、もっと行動に移さないと意味がないと反省しています。

 

大変なことが多い一年でしたが、結局のところ親がもっと勉強し、行動しなければならないというのが実感です。

子育てに休みなし。

 

とりあえずいい加減に息子の自転車の補助輪を外さないと……。

 

それでは今後もよろしくお願いいたします。

 

 

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