【絵本の紹介】「じんべえざめ」【283冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

鳥取県の河口にジンベエザメが迷い込んだという珍しいニュースが流れていました。

残念ながら死んでしまったようです。

 

ジンベエザメは基本的に温かい地域の海に生息、成長すると12メートル以上にもなるという最大の魚。

その巨大さから哺乳類と誤解しがちですが、魚類です。

私は海遊館で何度か見ましたが、他の小さな魚たちと同じ水槽に入れて大丈夫かなと心配になったものです。

 

しかし、ジンベエザメはとても大人しい性質のサメでして、エサも海中の微小なプランクトンなんですね(それであの巨体)。

飼育員のダイバーが近くを泳いでいても怖がりません。

今回はそんな人気者への賛歌的絵本「じんべえざめ」を紹介しましょう。

作・絵:新宮晋

出版社:扶桑社

発行日:1991年4月5日

 

作者は風や水などの自然の力で動く彫刻芸術家の新宮晋さん。

以前このブログで彼の絵本デビュー作「いちご」を取り上げました。

 

≫絵本の紹介「いちご」

 

新宮さんの独自の絵本の作り方は「いちご」と同様で、日本語と英語の二か国語のテキストで読めます。

新宮さんならではの自然を内側から見つめるような深い眼差しと詩的な言葉。

それに武骨で迫力満点のイラストも健在です。

 

光あふれる海

とつぜん巨大な影が

どーんと現れる

小さな耳 やさしい目

そして とてつもなく大きな口

白い気球のようなおなか

重い体重をささえる山脈のような背中

ゆったりとしたテンポで読み進めていくと、雄大なじんべえざめと一緒に海を泳いでいるような気持ちに。

水の惑星 私たちの地球

 

★      ★      ★

 

全編通して青と黒のモノトーンですが、不思議と暗い印象は受けません。

むしろ海面からのまばゆい光を感じます。

 

魚とは不思議な存在です。

空気と光が無ければ生きていけない人間や動物にとって、深い海の底は死の世界です。

 

けれど、このじんべえざめが棲んでいる海よりももっともっと深い深海の底の底のような場所でさえ、生きている魚がいるのです。

人間は宇宙のこともまだまだわかっていませんが、実はそれ以上に地球のこともわかっていません。

 

悠々と泳ぐ巨大なジンベエザメを見ていると、彼らが人間よりも劣った生物であるどころか、実は神のごとき存在なのかもしれないとさえ思えることがあります。

 

どんなに文明が進んでも、人は自然への畏敬の感情を失くすべきではない。

新宮さんの絵本からは、そんなメッセージが感じられるのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

じんべえざめの頼もしさ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「じんべえざめ

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【絵本の紹介】「11ぴきのねことぶた」【282冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

ずいぶん間が開いてしまいましたが、「11ぴきのねこ」シリーズを取り上げたいと思います。

これまでに「11ぴきのねこ」「11ぴきのねことあほうどり」を紹介しましたので、そちらも併せてお読みください。

 

≫絵本の紹介「11ぴきのねこ」

≫絵本の紹介「11ぴきのねことあほうどり」

 

馬場のぼるさんの妥協を許さない姿勢ゆえに、シリーズ続編までに5年かかり、そして今回紹介する3作目「11ぴきのねことぶた」の完成までにはやはり4年を要しています。

作・絵:馬場のぼる

出版社:こぐま社

発行日:1976年12月15日

 

つまり、「11ぴきのねこ」誕生からここまでですでに10年近く経過していることになります。

絵柄は安定していますが、印刷技術の向上か、色彩はこれまでに比べて格段に鮮やか。

 

ストーリーはシリーズ通しての特徴である人間心理・集団心理をより濃く描き出したものになっています。

それでいて楽しさは少しも失われていない点が素晴らしい。

 

お腹を空かせていた11ぴきは、コロッケ屋を経て、それなりに生活の余裕が生まれたのか、今回はトラックを所有しており、旅をしています。

田舎の丘で、一軒の古い家を見つけた11ぴき。

廃墟らしいその家を綺麗に掃除して、自分たちの家にすることにします。

するとそこに、旅のぶたが訪ねてきます。

このへんに、ぼくのおじさんのいえがあるんだが、こちらですかな

 

どうやらここはこのぶたのおじさんの家だった模様。

11ぴきも(壁の肖像画から)そのことは思い当っているはずなんですが、今さら明け渡すのは惜しい。

で、ぶたを追い出してしまいます。

 

ぶたは仕方なく、材木を集めて自分で家を建て始めます。

雨が降り、仕事のできないぶたを見ているうちに11ぴきは気の毒になってきて、ぶたを家に招き入れてやります。

 

親切をしていい気持ちになった11ぴきは、ぶたの家づくりも手伝ってやることにします。

設計図を描き、トラックで資材を運び、てきぱき働く11ぴき。

ぶたも喜びますが……。

出来上がった立派な家には「11ぴきのねこのいえ」の看板。

あげるのが惜しくなっちゃったんですね。

 

結局ぶたは11ぴきのねこが占拠していた家に住むことになります。

温厚なぶたは別に腹も立てず、「まあ、いいさ。もともと ここは ぼくのおじさんのいえなんだ」。

 

さて、夜が明けると、台風がやってきて……。

11ぴきは家ごと空へ吹き飛ばされてしまうのでした。

 

★      ★      ★

 

相変わらず11ぴきはずるくて欲が深いけれども、憎めません。

あの幸せそうな笑顔のせいでしょうか。

 

ある種の人間の業を現している11ぴきの哀れで滑稽な末路を、子どもたちは笑いながらも、どこかで彼らと自分自身の心を重ね合わせています。

そこで何が生まれるでしょうか。

自分自身の客観視です。

 

11ぴきの無責任さ、不道徳さは、典型的な集団心理です。

行為の責任を自分自身の個において引き受けなくてもよい気楽さが、彼らを支配しています(とらねこたいしょうだけは少々責任感を持ち合わせている様子ですが)。

 

それは幼い子どもたちの「グループ」にも見て取れる光景です。

隣の子がやっていることなら、いい悪いを判断する前に真似をし、隣の子が泣くと一緒になって泣く。

そこからは本当の倫理観や道徳心は生まれません。

 

そうした集団的自我から、人間はいずれは自由に解き放たれなくてはなりません。

個としての有責性を引き受けた時に、初めて人間は独立性を確保するのです。

 

もっとも、だからと言って幼い子どもたちを性急に独立させようとするのは間違っています。

すべてには準備期間が必要であり、成長にはある程度の時間をかけなくてはなりません。

子どもたちがいずれ自由な個我に目覚めるためには、焦らずに、心の土を耕し、未来の種をまかなければなりません。

 

その種が「自分自身の客観視」です。

この絵本を「教訓」だと思うべきではありません。

馬場さんはそんな物語は作りません。

 

この絵本が素晴らしいのは、子どもたちが心から笑えるからです。

教訓に対しては、子どもは笑いません。

反発するだけです。

 

大笑いしながら、同時に自己を見つめるきっかけになる。

それらを両立させることは口で言うほど容易い作業ではありません。

馬場さんだからこそ、その困難な物語を作ることに成功したのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

今年の台風被害を思うと、ラストはちょっと怖い度:☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「11ぴきのねことぶた

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【絵本の紹介】「ちいさいしょうぼうじどうしゃ」【281冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は古典名作シリーズ「スモールさんの絵本」より、「ちいさいしょうぼうじどうしゃ」を紹介します。

作・絵:ロイス・レンスキー

訳:渡辺茂男

出版社:福音館書店

発行日:1970年11月1日

 

主人公「スモールさん」が毎回色んな乗り物に乗ったり、色んな仕事に携わる様子を、簡潔で明快な文章と絵で描いたこのシリーズは、作者のレンスキーさんが息子のステファンの興味を満たすために作ったものだそうです。

 

だから、これらの作品はどれも、子どもの「あれ、なに?」「どうして?」に徹底的に真摯に答える構成になっています。

大人が読むと素っ気ない、あるいは少々くどいようにすら感じるテキストは、子どもの疑問の一つ一つを無視しない態度から来ています。

 

≫絵本の紹介「ちいさいじどうしゃ」

≫絵本の紹介「スモールさんののうじょう」

 

さて、今回はスモールさんはみんなの憧れ、消防士になって大活躍します。

ポンプ車の内容を紹介するカットはまるで図鑑。

子どもたちはこういうページが大好きです。

 

もちろん古い作品ですから、色々とレトロ感あります。

現代の消防車との違いを確認してみると面白いかもしれません。

この、滑り棒とか。

私も知らなかったもので「へえー」となりました。

 

ただ、今ではもう使われていないようです。

「一人ずつしか降りれない」「階段の方が早い」という切ない理由。

旧式ではあるものの、ポンプ車の機能は克明に描かれています。

スモールさんの迅速な指揮のもと、火は消され、そしてお約束の取り残された子どもを救出する場面も。

ほうすい やめえ!」と叫ぶスモールさんを、子どもたちは必ず真似たくなるでしょう。

 

★      ★      ★

 

スモールさんの絵本」は、復刻されてカラー版になったものと、この「ちいさいしょうぼうじどうしゃ」のように、当時のままの2色刷で刊行されているものがあります。

 

消防車の古さも加わって、地味で古い絵本に思えますが、子どもたちの受けは今も昔も変わりません。

ここから得られる知識が古いものであることも、何ら問題ではありません。

別にこの絵本の知識を一生持って行くわけではないですし。

 

大切なのは子どもたちの「知りたい」を満足させてやることであり、その最適な仕方について、この作者ほどに長じた人物は稀有な存在なのです。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

犬の活躍度:☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ちいさいしょうぼうじどうしゃ

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