【絵本の紹介】「ねずみとくじら」【361冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

もう新年1月も終わりに近いですね。

本当にあと少しで我が家の息子も小学生です。

 

幼稚園も保育所も行かなかった息子には、およそ友達と呼べる相手はいません。

人との付き合い方とか、気配りとか、そういうものはこれから学ぶにしても、果たして学校で友達が作れるものでしょうか。

 

息子にはたくさんの絵本や児童書を読んできましたけど、それらの中で思いやりとか美しい友情とか、そういう要素が琴線に触れた気配は全然ありません。

まだ早いだけだとは思うのですが、種だけは撒いておこうと思っています。

いつか自分の体験を通して、「あの時の物語の意味」に到達する時が来るはずです(たぶん)。

 

今回紹介するねずみ絵本は、温かくてちょっぴり切ない友情物語です。

ウィリアム・スタイグさんの「ねずみとくじら」。

作・絵:ウィリアム・スタイグ

訳:瀬田貞二

出版社:評論社

発行日:1976年12月20日

 

海辺で暮らす小さなねずみの「エーモス」は、大海原への憧れを募らせ、航海術を勉強し、自分で船まで作って、航海に乗り出します。

船旅は順調で面白く、エーモスは生きがいを感じます。

ある晩、エーモスは甲板で横になって限りない星空を眺めます。

 

個人的にはこのシーンがとても印象的です。

お馴染み瀬田貞二先生の訳文が素敵で、例によって難しい言い回しも出てきますけど、日本語がきれいです。

いきて ここにいる けしつぶほどの ねずみのみも、いきて ひろがる だいうちゅうのなかまとして、しみじみ うちゅう ぜんたいを したしく かんじました」。

 

こういう感性、現代の子どもたちにも持ってもらいたいものです。

そしてこの部分こそがこの絵本の核ともなっています。

 

この後、うっかり船から落ちてしまったエーモスは波間を漂い、力尽き、死を予感します。

その時、通りかかった巨大なくじらの「ボーリス」に助けられるのです。

お互いに哺乳類の仲間でありながら、あまりにも自分と違う相手に興味津々。

エーモスを陸地へ送り届ける旅の間に、二人はいつしか心を通わせ、親友となります。

 

しかしすぐに別れの時は来ます。

互いに住む場所が違う二人は、一緒にはいられません。

いっしょう ともだちでいような」と言い交わし、エーモスはボーリスに何か助けが必要なことがあったら、喜んで役に立つつもりだから忘れないでくれと約束して陸地へ帰ります。

もっとも、小さなエーモスがボーリスに何か助けになれるなどとは、ボーリスも本気では聞いていませんでした。

 

二人は互いに幸せに暮らし、長い年月が経ちます。

 

あるとき、ボーリスは恐ろしい大嵐に遭って浜辺に打ち上げられてしまいます。

その浜辺こそがエーモスが暮らす浜で、嵐の後を調べに来たエーモスとボーリスは思わぬ再会を果たします。

しかし、ボーリスはもはや干上がり力尽きようとしていました。

弱々しく助けを求めるボーリスでしたが、小さなエーモスにはどうすることもできません。

エーモスはどこかへ行ってしまい、ボーリスは死を覚悟します。

 

その時、エーモスが二頭の象を連れて帰ってきます。

象を指揮して、エーモスはボーリスを海へ押し戻します。

 

二人は涙を浮かべながら顔を見かわし、「さよなら」を言います。

ふたりは、このさき2どとあえないことを しっていました。そしてぜったいに、あいてをわすれないことも しっていました」。

 

★      ★      ★

 

友達には色々な関係があります。

似たもの同士の友人もあれば、周りが不思議に思うくらい共通点のない友人もあります。

そういう友達は、大人になってからではなかなか得難いもので、それだけに強い絆を感じたりするものです。

 

そして友情をはぐくむ時間も、長いものもあればほんの一時だけのものもあり、そのどちらが素晴らしいというものでもありません。

いっしょう ともだちでいような」というエーモスとボーリスの約束は、子どもにとっては至極当然の言葉であり、大人にとっては胸が締め付けられるような切なさを伴った言葉です。

 

世界中で、今までにどれだけの数、この約束が交わされたことでしょう。

その真偽を確かめる術もなく、しかし心からの真実を込めて交わされる約束。

 

けれども、エーモスとボーリスは運命的な再会を果たし、そして若き日の約束を果たすのです。

自分とは育った環境も見た目も能力も、何もかも違う相手を「友達」として信じ続けることは容易いことではありません。

年を取るほど、そうです。

だからこそ、この絵本は大人になればなるほど心に沁みます。

 

そして忘れてはいけないのは、この素晴らしい出会いは、エーモスが旅に出たからこそ巡り会えた宝物だということです。

若い時の旅はしておくべきですね。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

涙そうそう度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ねずみとくじら

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

絵本の買取依頼もお待ちしております。

 

〒578−0981

大阪府東大阪市島之内2−12−43

URL:http://ehonizm.com/

E-Mail:book@ehonizm.com

【絵本の紹介】「バラライカねずみのトラブロフ」【360冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

子年のねずみ絵本紹介シリーズ、続けます。

昨年1月に逝去されたジョン・バーニンガムさんの「バラライカねずみのトラブロフ」を紹介します。

作・絵:ジョン・バーニンガム

訳:瀬田貞二

出版社:ほるぷ出版

発行日:1976年9月20日

 

これは瀬田貞二先生による翻訳でほるぷ出版から発行されていたものですが、現在は絶版。

(例によって)童話館が復刻してくれていましたが、近年翻訳を秋野翔一郎さんに変えて「トラブロフ バラライカにみせられたねずみ」と改題されました。

 

どちらもところどころにちょっと難しい言い回しが使用されていて、読み応えがあります。

どちらがいいというのは好みの問題ですが、瀬田さんの訳文は今読んでも特に古くは感じません(冒頭のバラライカの解説に『ロシア(いまのソビエト)』とかは書いてますけど、まあ本文とは関係ないので)。

 

バラライカはロシアの楽器で、やたら耳に心地いい名称と可愛らしい三角のフォルムが印象に残っている方もいるでしょう。

けど、実際にその音色を聴く機会は少ないと思います。

 

これはジプシーの奏でるバラライカの音色に魅せられたねずみが、ミュージシャンを目指して家を飛び出し、やがてバンドを結成して売れっ子になるというサクセスストーリー絵本です。

舞台は「ヨーロッパの なかほどの いなか」で、雪深い地方という設定になってますが、バーニンガムさんの自伝「わたしの絵本、わたしの人生」(ほるぷ出版)によればどうやらユーゴスラビアのようです。

宿屋で暮らすねずみ一家の男の子「トラブロフ」は、夜ごと酒場で演奏されるジプシーの音楽に聞きほれていました。

そんなトラブロフに、大工ねずみの「ナバコフじいさん」がバラライカを作ってくれます。

 

トラブロフは大喜びしますが、独学でバラライカを弾きこなすのは大変なことでした。

ある晩、ひとりのジプシーじいさんがトラブロフの練習を聴きつけ、自分が手ほどきをしてやれたのにと残念がります。

彼らは今晩の内にここを立ち去るからです。

それを聞いたトラブロフは、両親にも黙って宿屋を抜け出し、単身ジプシーの楽団について行ってしまいます。

トラブロフはジプシーと共に旅をし、毎晩熱心にバラライカの練習をします。

 

しかし一方、トラブロフの母親は息子がいなくなった心配から病に臥せってしまいます。

トラブロフの手掛かりを得た妹は、兄を連れ戻すためにスキーで後を追います。

ついに兄を発見した妹が急を知らせ、トラブロフもスキーに乗って二人で家に帰ります。

途中、吹雪に遭ったりしつつ、どうにか無事に帰り着いたトラブロフ達を見て、両親は叱るのも忘れて喜びます。

 

ただ、心配事はもうひとつあり、宿屋の主人がねずみを追い出そうと準備しているのです。

ちょうどその時、予定の楽士たちが来ないことに困り果てていた宿屋の主人のところへ、トラブロフが姿を見せます。

そして、自分に楽士を務めさせてくれるよう交渉します。

 

主人は驚くものの、トラブロフの腕前に感心し、一家は晴れて追い出される心配もなく宿屋に住むことを許されます。

やがてトラブロフの兄弟たちも楽器を習ってバンドを結成し、ねずみの楽団として有名になるのでした。

 

★      ★      ★

 

赤黒い色使いの重たさが、寒さの厳しい雪国情緒を感じさせます。

北国の民族音楽の旋律というのは、どうしてあんなに美しく響くのでしょう。

 

私は寒さが苦手なわりには、南国より北国に惹かれる傾向があるようです。

「いいな」と思う文化は北の方が多いです。

 

バーニンガムさんは冬のユーゴスラビアでの経験をもとにこの絵本を作ったといいます。

そこでそりで4時間もかけて行った結婚式の披露宴で、三日三晩鳴り続けていたジプシーの演奏を忘れられないと語っています。

 

ちなみに、人間ぽく描かれているトラブロフ達の指ですが、ねずみの前足はもともと5本指なのでこれは正しいのですね(ミッキーマウスの指が4本だから勘違いしやすいんですが)。

だからこそバラライカを奏でることができるのだと考えれば、納得の設定です。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

バラライカ聴いてみたい度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「バラライカねずみのトラブロフ

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

絵本の買取依頼もお待ちしております。

 

〒578−0981

大阪府東大阪市島之内2−12−43

URL:http://ehonizm.com/

E-Mail:book@ehonizm.com

【絵本の紹介】「ウィリーをすくえ! チム川をいく」【359冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

子年ということでねずみ絵本紹介してますが、いくらでもあります。

もう二冊くらいでいったん通常モードに戻ろうと思いますけど、この先も普通にねずみ絵本は出てくるでしょう。

色々考えたけど、これを紹介しておきたいと思ったので、ジュディ・ブルックさんの「ウィリーをすくえ! チム川をいく」を持ってきました。

作・絵:ジュディ・ブルック

訳:秋野翔一郎

出版社:童話館

発行日:2004年2月10日

 

実は私も知りませんでしたが、雰囲気から登場人物から、どうもシリーズものらしいと思って調べてみたら案の定、以前は「ゆうかんなティム・シリーズ」として冨山房から刊行されていた絵本でした。

現在は絶版となり、唯一このおはなしだけが童話館から発行されているのみです。

 

ストーリーも面白いし、何と言っても絵が素晴らしいと思うんですが、残念なことです。

シリーズの他作品は現在どれも入手困難です(お売りくださる方がいれば高価買取いたします!)。

 

(たぶん)イギリスの田園が舞台。

扉絵の美しく細緻な風景だけでもしばらく楽しめます。

 

主人公の「野ねずみのチム」と「はりねずみのブラウンさん」(なぜか「さん」付け)が川遊びしていると、ビンが流れ着きます。

中には手紙が入っていて、「かえるのウィリー」が助けを求める内容に、ふたりはびっくり。

どぶねずみの一味」にさらわれたというウィリーを救うべく、チム自作のいかだに乗って、ウグイの案内で川を下ります。

 

登場人物の説明が少なく、唐突な展開に感じますが、前述したようにもともとシリーズものですので、脳内補完してくだい。

片面カラー、片面モノクロの印刷なんですけど、本当に絵が楽しい。

小さなねずみたちにとっては、途中で出くわす牛やあひるも大変な難関。

やっとのことでどぶねずみたちの根城である「おもちゃの船」まで辿り着きます。

おもちゃと言い条、かなり高価なもののように見えますけど。

何しろ船室までしっかり作り込まれているのです。

 

どぶねずみたちは昼間は眠っており、その隙にチムとブラウンさんはどこかに閉じ込められているウィリーを探します。

今にも起き出しそうなどぶねずみたちの前を通り、ハラハラしながらチムはかえるのウィリーを見つけ出します。

幸いにもどぶねずみたちは目を覚まさず、チムはウィリーを救助します。

逃げ際にチムは船を岸につないでいるロープを噛み切っておきます。

 

船は流れに乗って川を下り始めます。

やつら、さぞ、びっくりするだろうな」。

 

チムたちは無事に家に帰り着き、盛大な歓迎を受けます。

一方、どぶねずみたちがどうなったかは、最後のカットで描かれます。

 

★      ★      ★

 

チムのいかだ、ドブネズミ一味の船、ウィリーのうち、どれも非常に細かく描かれていて、小物ひとつひとつが楽しいですね。

人間の村の描写、子どもたちや村人たちの行動も生き生きと感じられ、テキスト以上に雄弁です。

 

そのテキスト自体は割と長く、漢字も用いられ、冒険児童小説といった雰囲気があります。

川で拾ったビン詰めの手紙から始まる海(川だけど)の冒険、自分より巨大なものに囲まれても勇敢に切り抜ける痛快さ。

 

それらがありありと想像できるのは、やっぱり絵の力によるところが大きいでしょう。

こういう田舎の自然風景の中には、子どもの冒険心を駆り立てるものがたくさんあります。

 

都会でビンが流れててもねえ。

ただのゴミだし、汚いし……。

 

ぜひとも他の「ティム・シリーズ」も復刻してもらいたいと願っています。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

アニメ化できそう度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ウィリーをすくえ! チム川をいく

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

絵本の買取依頼もお待ちしております。

 

〒578−0981

大阪府東大阪市島之内2−12−43

URL:http://ehonizm.com/

E-Mail:book@ehonizm.com