【絵本の紹介】「あな」【再UP】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

一時代を築いたイラストレーター・和田誠さんの訃報が届きました。

享年83歳。

 

「イラスト」という言葉が定着したのは和田さんの功績と言われるほど、その仕事量・知名度は業界第一人者。

「週刊文春」の表紙イラスト、村上春樹や星新一などの小説の装丁、たばこ「ハイライト」のデザインなど、何らかの形で彼の絵に触れなかった人は少ないでしょう。

ちなみに私が初めて和田さんの絵に出会ったのは寺村輝夫さんの「ぼくは王さま」第一巻です。

 

また、絵の世界に留まらず、「麻雀放浪記」(これも観ました)を始めとする映画監督、エッセイスト、舞台台本などマルチな活躍を見せました。

今回は和田さんを偲んで、彼と谷川俊太郎さんによる哲学的絵本「あな」を再UPします。

 

★      ★      ★

 

今回は日本を代表する詩人・谷川俊太郎さんとイラストレーターの和田誠さんのタッグによる、一癖も二癖もある絵本「あな」を紹介します。

作:谷川俊太郎

絵:和田誠

出版社:福音館書店

発行日:1983年3月5日(こどものとも傑作集)

 

谷川さんに関しては、知らない人の方が少ないでしょう。

現代日本において「詩人」という肩書を持ち、詩を「生業」としている人物と言えば、もう彼以外には思いつけないくらいです。

 

絵本との係わりも深く、「フレデリック」などの海外絵本の翻訳の他、自身が文を担当した作品も多くあります。

そして、3回にわたる結婚・離婚のうち、最初の妻は「かばくん」などを手掛けた絵本作家・岸田衿子さん。

そして3人目の妻は「100万回生きたねこ」の作者・佐野洋子さんなのですね。

 

≫絵本の紹介「フレデリック」

≫絵本の紹介「かばくん」

≫絵本の紹介「100万回生きたねこ」

 

絵を担当する和田さんも、これまた有名なイラストレーター。

何かと話題の雑誌「週刊文春」の表紙は40年にわたって彼が担当しています。

イラストだけでなく、エッセイや映画など、幅広い分野でその才能を発揮しています。

 

そんな二人が作った絵本ですから、一筋縄では行きません。

まず、横に見て縦開き、という構成からして異色です。

 

見開き画面の下3分の2を茶一色として、地面の断面図を描いているのですね。

にちようびの あさ、なにも することがなかったので、ひろしは あなを ほりはじめた

なんで? とも思うし、そういうこともあるか、とも思ったり。

 

ひろし少年は淡々とした表情で、スコップを手に深い穴を掘っていきます。

母親、妹、友だち(広島カープファン)、父親が次々とやってきて色んなことを言いますが、ひろしは取り合わず、黙々と掘り続けます。

やがて自分がすっぽり地面の中に隠れるくらいの深さに到達したとき、ひろしはスコップを置き、初めて満足げな微笑を浮かべます。

これは ぼくの あなだ

 

母親たちがまた一通り登場して、短い会話を交わします。

ひろしは穴の中に座り続け、日が暮れるころに穴から出てきます。

これは ぼくの あなだ

 

もう一度そう思ったひろしは、スコップを使って今度は穴を埋めにかかります。

最後は、扉絵と同じく、元の平らな地面のカットで終わります。

 

★      ★      ★

 

全編通して同じ横視点の構図で物語は進行しますが、地中を掘り進む芋虫や空の色など、随所の変化を楽しめます。

また、一見するとよくわからなかった表紙の絵が、内容を読むことで、穴の中から空を見上げるひろしの視点なのだと判明します。

裏表紙は外から覗いた穴の中です。

 

さて、内容については例によって様々な解釈が可能です。

 

「穴を掘る」理由は、おそらくはひろし本人にもわかっていない(訳知り顔の父親にも、たぶんわかっていない)。

その割に、ひろしは汗をかき、手に豆ができるほどに頑張ってスコップを振るいます。

 

普通に考えれば、彼の労力の先には「無」しかない。

穴を掘ることで報酬がもらえるわけでも、誰かに認められるわけでもない。

でも、それ故にひろしの努力は純粋です。

その純粋さを守るために、ひろしは妹の手伝いや「おいけに しようよ」という提案を拒絶します。

さらには、最後に穴を埋めることで、ひろしの「無償の行為」は完全化されるのです。

 

現代社会では、「無」に向かっての行為など理解されないばかりか、下手をすると憎悪の対象にすらなります。

「コスパ」という言葉が表しているように、どんな行為にも「費用対効果」をまず考えることが常識となっているからです。

 

それ自体は別に悪いことではありませんが、あまりにもそうした思考に慣れすぎると、自分の中にある純粋な衝動を感じ取れなくなります。

「何の役に立つのか」という疑問を立てる前にただ行動する、その純粋さの先にあるものが、

あなのなかから みる そらは、いつもより もっと あおく もっと たかく おもえた

という光景です。

 

これは、見ようと思って見られるものではありません。

見返りや期待や打算を飛び越えて行動した者だけが辿り着くことのできる視座なのです。

 

これは、子育てに関しても当てはまることです。

子どもの教育に熱心な親は大勢いますが、彼らは将来的に子どもが思うように育たなかった時、後悔したり恨んだりしないでしょうか。

 

けれども、本当に見返りを期待せずに子どものために行動した者は、最終的には子どもに左右されることのない、自分の人生を手に入れるはずだと思うのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

穴だけに深い度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「あな

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

絵本の買取依頼もお待ちしております。

 

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【絵本の紹介】「もぐらとじどうしゃ」【342冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

10月に入ってようやく少し涼しくなってきましたね。

しかし今年ももう10月ですか……。

色々忙しい1年でしたが、充実していたと思いま……いや、まとめるには気が早すぎますね。

 

今回は絵本大国・チェコから来た人気シリーズを初紹介しましょう。

もぐらとじどうしゃ」です。

作:エドアルド・ペチシカ

絵:ズデネック・ミレル

訳:内田莉莎子

出版社:福音館書店

発行日:1969年5月1日

 

チェコの絵本って世界中で人気なんですよ。

とにかく可愛くておしゃれだというので、インテリアとしてのコレクターもいるそうです。

 

私はやっぱり内容を読みたい人なので、邦訳されてない絵本についてはあまり詳しくないですけど、物語や構成に関しても高いレベルの作品が揃っているようです。

この「もぐらとじどうしゃ」はアニメ化もされているシリーズです。

翻訳絵本が刊行されたのはかなり古い話で、この表紙か、または姉妹作「もぐらのずぼん」の表紙を見ると懐かしい気持ちになる人も多いのではないでしょうか。

 

本国チェコでは知らない人はいないくらいの人気シリーズで50作以上も刊行されていますが、日本では上の2作品以降、長い間新作が翻訳出版されていませんでした。

2002年になってようやく偕成社から木村有子さんの翻訳で「もぐらくんおはよう」が出版され、以後シリーズ絵本として定期的に刊行されるようになりました。

福音館書店の「もぐらとずぼん」が1967年、この「もぐらとじどうしゃ」が1969年の発行ですから、実に30年ごしの新作ということになります。

 

けれど、30年前の絵本業界にとって、この色彩豊かで躍動感のある「もぐらくん」は非常に魅力的に映ったことだと思います。

たくさんの色が使われた賑やかな画面を、もぐらくんが所狭しと駆け回ります。

町を走る自動車を見て、自分も自動車が欲しくなったもぐらくん。

乗り物に憧れる気持ちは大人と子どもでは違うもの。

もぐらくんの情熱は子どもの純粋な自動車への憧憬そのものです。

もぐらくんは自動車を手に入れるために東奔西走。

工場で構造を学び、材料を集め、組み立て、失敗し、試行錯誤する過程がしっかりと描かれています。

テキストもなかなか多め。

紆余曲折あってついに念願の自動車を手に入れます。

ゼンマイ式だけど、ちゃんと乗って動く自動車です。

 

もぐらくんは他の自動車に混じって公道を思う存分走り、ありくんに道路の渡りかたを教え、いぬくんに自動車を披露し、いい気分で家に帰ります。

もぐらくんは自動車のねじを大事に抱えて眠るのでした。

 

★      ★      ★

 

かなり読み応えあります。

個人的には最初のブリキ缶で作った自動車が実際に動いて欲しかったです。

工作としてはなかなかよくできてます。

 

車輪のことを「くるま」と訳してるあたりに時代を感じます。

じどうしゃには くるまが ぜったいいるな

今はほとんど「車」=「自動車」という認識が一般的ですので、子どもが読むと「?」となりそうです。

 

それでも色あせない面白さ。

子どもの乗り物への情熱が失われない限り、こうした作品は時代を超えて読み継がれるでしょう。

 

私の息子も人並みに自動車熱を持ってましたが、最近は興味の範囲が広がって、昔ほど自動車に興奮しなくなりました。

鉄道、貨物船、飛行機、宇宙探査機……。

本人はやっと補助輪付きの自転車デビューしたところですがね。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

もぐらくんの器用さ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「もぐらとじどうしゃ

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【絵本の紹介】「3びきのぶたたち」【341冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

知れば知るほど奥が深い絵本の世界。

これだけ読み続けてもまだ「絵本とはこういうもの」だと確立することはできません。

そこが絵本の魅力でもあるし可能性でもある。

 

このブログを始めた当初は、「絵本とは原則的に子どものためのもの」だというのが私の見方でした。

それは絵本史的に見ても事実です。

もちろん大人が読んでも面白い絵本はいくらでもありますが、やはり基本的には子どもに向けたメディアです。

 

従って、いかに絵本が自由度の高い芸術であると言っても、例えば極端に偏った思想や過激な表現などは控えざるを得ません(R指定という手はあるけど)。

しかしそれが作品としての「不自由さ」であるとは言えないと思います。

絵本は根本的に様々な「余剰物」を削る作業の中で洗練されていく芸術です。

一見すると「制約」があるように感じられる中で、作者の感性と技術によって驚くほど自由な世界を描き出すことができるのです。

 

今回は現代絵本作家の中で突出した天才性を放つデイヴィッド・ウィーズナーさんによる前衛的絵本「3びきのぶたたち」を取り上げましょう。

作・絵:デイヴィッド・ウィーズナー

訳:江國香織

出版社:BL出版

発行日:2002年10月15日

 

アメリカ絵本界の最高賞コールデコット賞受賞作品。

年に一冊しか選ばれないこの栄誉ある賞を、ウィーズナーさんは3度も受賞しています(次点作品もあります)。

同賞を3度というのはおそらく最多で、他にはマーシャ・ブラウンさんくらいだったように思います。

 

≫絵本の紹介「セクター7」

≫絵本の紹介「かようびのよる」

≫絵本の紹介「漂流物」

 

きちんとデフォルメされていながら写実的な表紙の3びきのぶた。

もちろんこれはかの有名な「三びきのこぶた」のおはなしだと思うでしょう?

私もそう思いました。

 

≫絵本の紹介「三びきのこぶた」

 

ウィーズナーさんの精緻なイラストによる名作童話というだけでも面白そうだけど、そこはあのウィーズナーさんだから、どこか普通と違ったところがあるんだろう……と思いきや、そんな生易しいレベルの「違い」ではありませんでした。

 

お話はいたってオーソドックスに始まっているように見えますが、妙なことに絵柄が表紙絵と違います。

よりデフォルメされています。

そして、テキストも絵も、変に急ぎ足。

第一場面ですでに1ぴきめのぶたが「わらのいえ」を建てて、それを狼が見下ろしているという。

 

狼は原作通りに行動し、中に入れてくれと話しかけ、ぶたが断ると息を吹きかけて藁の家を吹き飛ばそうとするのですが、ここのテキストと絵も何だかちぐはぐな印象を受けます。

これが通常の昔話絵本なら失敗作の部類に入りますが、ここから物語は読者の予想を遥かに超え、ぶっ飛んだ展開に突入していきます。

 

ここまでの場面は枠内で描かれていたのですが、狼が息を吹きかけると、ぶたはなんとその枠から外へ飛び出してしまいます。

漫画で言えば「コマの外」へ出てしまうわけです。

セリフはフキダシで「ひゃあ! おはなしのそとまで ふきとばされちゃった!」、イラストも表紙の写実的な造形に変化。

 

テキスト上では狼は「こぶたをたべてしまいました」となっているのに、ぶたは物語世界から消滅しているため、画面上では狼が困惑の表情を浮かべています。

立体的な次元へ移動したぶたは、続いて兄弟たちを連れ出し、狼がいた二次元の世界で紙飛行機を折り、飛び立ちます。

文章で説明しても何だかよくわからないところが、「絵本でしかできない表現」であることを如実に示していますよね。

 

ぶたたちは今度は「マザーグース」の世界を発見し、入り込んでみます。

ここではデフォルメはさらに強まり、ほとんど違うキャラクターになってしまいます。

余談ですが、マザーグースは海外絵本(特に古典)にはよく登場しますが、我々にはなじみが薄いために、一瞬「?」となってしまうこともしばしば。

ぶたたちが再び外の次元へ出るとき、ヴァイオリンを弾いていた猫も一緒についてきます。

 

次にぶたたちが飛び込んだのはモノクロの民話世界。

金色の薔薇を守る竜と、それを手に入れようとする王子。

ぶたたちは退治される運命にある竜を物語の外へ救い出します。

その後3びきは新しい仲間と共に元の世界へ帰還します。

そこには当然狼が待ち構えているのですが、竜が扉から頭を出すとテキストごと狼はひっくり返ってしまいます。

竜や猫のタッチも物語世界に合わせて変化していることに注目。

 

最後はテキストまで自分たちで勝手に構成し、ハッピーエンド。

 

★      ★      ★

 

冒頭の昔話は「当然知ってる」ことを前提にして、真面目に役をこなす狼をどこか滑稽に描いています。

それじゃあ いきをすって いきをはき、いえをふきとばすしかあるまいな」という冗長なテキストや、息を吐く狼のシリアスな表情や。

 

つまりこれはいわゆるメタフィクションなのですが、それを絵本に持ち込んだところに作者と編集者の勇気と実験精神が光ります。

人気の昔話をこうした形でパロディ化することについては、必ずしも好意的に迎えられるとは限らないし、批判も覚悟の上だったと思います。

下手をすると「タイトル詐欺」扱いされるかもしれません。

 

記事の最初に触れた絵本ゆえの難しさはこういうところにあります。

「子どもが読む」ことを念頭に置いた場合、メタ的な表現はどうしても敬遠されます。

良否以前に、幼い子どもの認知力では混乱を避けられないからです。

 

事実、私の息子にこれを読んだ時(3歳ごろだったかな)も、反応は「なんだこりゃ」でした。

ぶたがアップで「おや……そこにいるのはだれ?」と問いかけるシーンでも、それが読者である自分自身に向けられたものであることに、子どもはなかなか気づけません。

「画面の外」に見えない何かがいるのだという捉え方をします。

 

単に理解できないだけでなく、幼い子どもは見知った物語を改編されることを嫌う傾向があります。

「繰り返し読み」を好むのは、何度も同じ物語に没入することである種の安心感を得るためでもあります。

しかし、この「3びきのぶたたち」のような作品は「自分の認知力の外」へ向かうことを読者に要請し、「物語に没入すること」を止揚します。

 

しかしそれでもなおこの作品がコールデコット賞に輝いたことは、アメリカ絵本界の懐の深さを示していると言えそうです。

それに、実は「三びきのこぶた」のパロディは今作をもって嚆矢とするわけではなく、ジョン・シェスカさんの「三びきのコブタのほんとうの話」やユージーン・トリビザスさんの「3びきのかわいいオオカミ」などのひねりの効いた作品がすでに先行しており、「3びきのぶたたち」はそれらの系譜に連なる絵本とも言えます。

 

ですから、年齢さえ考慮すれば、こうした実験的作品もじゅうぶんに受け入れられる要素はあるのです。

メタフィクションも小学生くらいになれば理解可能です(漫画にはいっぱいあるし)。

ですからこうした絵本が次々に登場すれば、それは絵本読者の年齢層の多様化にも繋がるかもしれませんね。

 

息子も6歳になった今ではすっかりこの絵本がお気に入りですし。

 

推奨年齢:小学校中学年〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

竜の物語の続きが気になる度:☆☆☆☆

 

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