【絵本の紹介】「おなかのすくさんぽ」【129冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

子どもの遊びを観察するのは面白いものですが、時には発散させるエネルギーが大人の目からは常軌を逸しているように見えて、「この子大丈夫かな」と心配になったりもします。

 

我が家の息子はひとたび公園へ行くと、8時が9時になろうと帰ろうとしません。

メインは砂遊びですが、泥をこねるのは嫌がります。

何をするのかと言うと、ひたすら砂を撒き散らかすのです。

そのうちに自分の身体に砂をかけ始め、しまいには手足を砂の中に埋めてしまいます。

表情を見ていると、真剣で、特に笑いもせずに黙々とやってたりする。

 

片山健さんは、普通の大人には理解しがたい、子どもの一種グロテスクとも言える内的なエネルギーを掬い取ることに長けた作家です。

今回は「おなかのすくさんぽ」を紹介します。

作・絵:片山健

出版社:福音館書店

発行日:1992年4月10日(こどものとも傑作集)

 

ラフな色鉛筆のスケッチ風の絵ですが、主人公の男の子の表情と目力の強烈さといったら。

片山さんは子どもを動物的に描く人ですけど、この男の子は特にその傾向が顕著で、ほとんど人間離れしています。

 

男の子が歩いていると、動物たちが水たまりで遊んでいます。

男の子は一緒になって、

バッチャン バッチャン バッチャン バッチャン

なんだか うれしくなって エヘヘヘヘー

 

泥をこね、穴に潜り、男の子はさらに野生化し、ますます目の光は強くなっていきます。

そして洞窟探検。

もはや完全に動物化してます。

ワーオ ワーオ ブギャー、ギャーオ ギャーオ クアー

 

もう誰にも止められません。

その後でくまが、

きみは おいしそうだねえ。ちょっとだけ なめて いーい?

なんて、ドキッとするようなことを言いますが、最後にはみんなお腹がペコペコになって、

おなかが なくから かーえろ

 

★      ★      ★

 

フランスの児童文学者、ルネ・ギヨは、

子どもは、大人の中に入っていくよりも、動物たちの中に入っていく方が、ずっとずっと安心するのだ

と語っています。

 

確かに、空腹や快不快といった感覚に対する反応で生きているあたり、子どもは動物に近い存在です。

動物ならばそうやって生きることに何の不安も疑念もないでしょう。

でも、子どもはやはり人間です。

自分の感情や衝動を制御できないことに、無意識的にであれ、恐怖と不安を抱えているのだと思います。

 

子どもを注意深く観察していると、子どもの内部で凄まじい葛藤とせめぎ合いが渦巻いているのを感じられます。

ほとんど目にも止まらぬ速度で成長し続ける子どもは、常に内的な戦いに晒されているのです。

私はこの絵本を読むと、モーリス・センダックさんの「かいじゅうたちのいるところ」のマックス少年を思い出します。

 

≫絵本の紹介「かいじゅうたちのいるところ」

 

大人には理解不可能な子どもの遊びに込められた情念は、まさに、大人の目には呑気で牧歌的に映っている「子ども時代」が、いかに困難な戦いの時代であるかを物語っているのです。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

男の子の目力度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「おなかのすくさんぽ

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】小澤俊夫・赤羽末吉「かちかちやま」【128冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は日本五大昔話の一つにして、昔話史上最大の問題作でもある「かちかちやま」を取り上げます。

再話:小澤俊夫

絵:赤羽末吉

出版社:福音館書店

発行日:1988年4月20日

 

ご存知の方も多いかもしれませんが、このおはなし、実は目を背けたくなるほどの残虐かつ凄惨な描写があります。

単なる暴力描写ではなく、心理的にエグいのです。

 

これをどう子供向け絵本にするのか、再話に臨んだ作家さんたちはみんな悩んだことでしょう。

あくまで原作を大事にして、そのままにするのか。

時代や倫理観の変化を考慮して、問題の箇所を削ったり、改編するのか。

この小澤俊夫さん再話・赤羽末吉さん絵による作品は、表現方法をややオブラートに包みながらも、昔ながらのお話をそこそこ忠実に再現しております。

 

むかし、じいさまが畑へ行き、

ひとつぶのまめ せんつぶになあれ

と歌いながら豆をまいていると、切り株に座っていた狸が、

じいのまめ かたわれになあれ

と囃し立てます。

 

怒ったじいさまは狸を捕らえ、縛り上げて家に帰ります。

ばあさまに狸汁をこしらえてくれ、と言い残し、じいさまはまた出かけます。

 

狸はばあさまに粟餅つきを手伝ってやるからと言って縄を解かせ、すきを見て杵でばあさまを撲殺します。

狸はばあさまに化け、戻ってきたじいさまに粟餅と狸汁を出します。

じいさまは、

なんだか ばあさまくさいなあ

と言いながら、狸汁を完食。

 

すると狸が正体を現し、

ばあじる くったし、あわもち くった。ながしのしたの ほねを みろ

と言って逃げます。

 

じいさまが悔しさに泣いていると兎がやってきて、仇討ちを請け負います。

ここから兎は三度に亘って狸に報復を加えます。

まずは、背中に担いだ萱草に火をつけ、大やけどを負わせます。

 

さらに薬だと騙してやけど痕に唐辛子を塗り込み、最後はご存知の通り、泥船を作って狸を誘い込み、沈めてしまいます。

 

★      ★      ★

 

やっぱり、最大の問題部分は、狸がばあさまを打ち殺すばかりか、その肉で「ばあじる」をこしらえ、あまつさえそれをじいさまに食わせるという非道極まりない行為でしょう。

ちょっと、他の昔話にも類を見ないグロテスクさです。

 

いくらなんでもやり過ぎだとして、この部分を完全にカットし、単にばあさまを殺されるだけ(もしくは重傷を負わせるだけ)に改編した作品が多いのも無理からぬ話でしょう。

 

ただし、そうすると、今度は逆に兎の狸に対する仕打ちが、ひど過ぎるように見えるという問題があります。

というわけで、狸も殺されるまでは行かず、最後は改心するというオチを用意したりした作品もあります。

ですが、こうなると、もはや原作の本質部分が失われてしまうようにも思えます。

何とも扱いの難しい昔話なのです。

 

では、この昔話の本質とは何かを考えてみると、これは「量刑」の物語であるということが言えます。

 

兎は「裁判官」であり、「処刑執行人」でもあります。

じいさまが自分で仇を討つなら、それは単なる復讐ですが、代理人を立て、第三者の判断に託すことで、「私怨」を「法の裁き」に変えるわけです。

 

さて、そうなると、狸の犯した罪と兎の加える刑罰との「バランスが妥当であるかどうか」が重要になってきます。

 

そしてそれを判断するのは、読者ひとりひとりの感情です。

「法」は神様が決めるものではありません。

アダム・スミスが「道徳感情論」で指摘しているように、量刑というものは、人間の感情が「これくらいが一般に妥当であると受け入れられるだろう」という「共感」を基準に決められています。

 

ですから、人間の情緒的な進化(変化)に伴って、量刑判断も変わってきます。

昔のような、「目には目を」式の判決は、現代では通用しません。

 

だから、「そもそも最初に狸を殺そうとしたのはじいさまだし、狸は正当防衛でしょう」という意見が出たり、「兎の火責め、水責め、だまし討ちはやり過ぎ」と思われたりするわけです。

しかしここに「ばあじる事件」を加えると、一気に裁判の行方は変わるでしょう。

 

そんな風にして、我々の感情とともに様々に形を変えることは、むしろこの昔話のあるべき様相なのだと思います。

「かちかちやま」がどのように再話されているかによって、その時代の人間感情を量ることができる、という言い方もできるかもしれません。

そういう意味で、これはやはり、非常にすぐれた昔話だと思うのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

猟奇的度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「かちかちやま

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【絵本の紹介】「アンガスとあひる」【127冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは古典絵本「アンガスとあひる」です。

作・絵:マージョリー・フラック

訳:瀬田貞二

出版社:福音館書店

発行日:1974年7月15日

 

作者のマージョリー・フラックさんはワンダ・ガアグさん(「100まんびきのねこ」の作者)とともに、アメリカ絵本の基礎を築いたとされる人です。

日本での刊行は1974年のことですが、この絵本が発表されたのは実に87年前、1930年です。

 

色も少なく、コストカットなどの理由から片面カラーで、モノクロのページと交互に展開される印刷は、現代の目から見れば少々地味に映るかもしれません。

また、ストーリーも単純で、目を見張るほどのドラマはありません。

 

しかし、注目するべきは、その構成、ページ配分の妙、動きを持たせるための様々な工夫です。

絵本を単なる挿し絵のついた本や画集ではない表現分野にするための腐心とも言えます。

 

アンガスは好奇心旺盛なスコッチテリアの子犬。

見るもの嗅ぐもの、何でも知りたがりましたが、普段は紐に繋がれていて、自由に調べられません。

 

ある日、紐が外れているチャンスを得たアンガスは、以前から気になっていた庭の生垣の向こう側から聞こえる「ガー、ガー、ゲーック、ガー!」という音の正体を確かめに飛び出します。

音の正体は二羽のあひる。

アンガスは吠えたててあひるを脅かし、水飲み場から追い立ててしまいます。

勝ち誇ったように水飲み場を占拠するアンガス。

しかし……。

あひるたちの突然の逆襲に遭い、アンガスは慌てて逃げ出します。

そしてどうにか家に飛び込んで、ソファの下に潜り込みます。

 

★      ★      ★

 

この絵本の軸となっているのは、ひたすらアンガスの「行動」です。

読み手はページをめくることでアンガスの動きを追うわけですが、アンガスの位置(あひるに追われて、だんだん画面隅へ追いやられ、最後には尻尾のみになります)、さりげない文のリード(次のページへまたがる文が多数あります)、クライマックス前の静けさの演出(アンガスが水を飲み、あひるたちが不気味に話し合っている図)など、実によく計算されています。

 

そして、ラストシーンの3連続のアンガスの静止画と、

そして、とけいの きざむ、いち

に、

さんぷんかん、なにごとも しりたいと おもいませんでした

という文の呼吸も見事な効果を生んでいます。

 

派手さはなくとも、こうした様々な試みに成功したことが、のちの絵本作家たちに多大な影響を与えたことは間違いないでしょう。

そしてもちろん、この「アンガスとあひる」は現代でも子どもたちに読み継がれ、じゅうぶんに支持される作品であり続けています。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

静と動の巧みな使い分け度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「アンガスとあひる

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